塚本紗弓さん/屋久島町役場健康長寿課 感染症予防担当 保健師

“みんなが、コロナウィルス感染症の患者さんの回復を祈れるような町に”

町役場の感染症予防担当者のねがい

「もし屋久島でコロナウィルス感染者が確認されたとしても、偏見や非難ではなく、病気の人を労われるような、患者さんの無事回復を一番に祈ることができるような、そんな町であってほしいです」

そう語るのは、屋久島町 健康長寿課に勤務している塚本紗弓さん。町の保健師として感染症予防を担当している。

屋久島では、コロナウィルス感染者は確認されてない(8/17日現在)。しかし、塚本さんのお話を伺いながら、関係者はこれまで体験したことのない緊張感のなかで働いているのだと感じた。

「難しいことかもしれませんが、以前のように島内外への人の出入りを止めるのではなく、感染予防を徹底することでなんとか発症を防ぎたい。いまは関係者一丸となって、その道を諦めずに目指しています」

 

情報の”共有”と”提供”の大切さ。

遠い国の出来事からパンデミックへ、そして都市封鎖で見えた現実社会での難しさ

新型インフルエンザ等対策特別措置法が改正され、新型コロナウィルス感染症もこの対象疾患に位置づけられたことから、自治体はその行動計画に準じて対応をしている。それを受けて、屋久島町新型コロナウイルス感染症対策本部はこれまで会議を9回開催し、その中で7つの対策班を設け、防護服の着用方法や情報共有を行い、各商店等に感染予防のチラシを提供し、口永良部島では説明会を開くなど、来るべき日に備え体制を整えているという。

「今年の始めにコロナウィルスが流行したときは、まだ遠い国で起こった出来事のように感じ、あまり現実味がありませんでした。そのとき数年前の新型インフルエンザ行動計画を見て、パンデミックから都市封鎖になるという事は理解していましたが、実際にそうなってみると、それらが決して簡単なことじゃないということが分かりました」

 

1人も取りこぼすことがないように

これまで保健所が中心となって、島内の医療従事者や町などで会議を開き、情報共有を重ねてきた。様々な立場からの意見交換は、塚本さんの励みにもなったという。

「島内の医師や関係者などの間で、考えや気持ちを分かち合うことはとても大切なことだと感じました。『助けられる人を取りこぼすことが決して無いように』、皆さんがそんな思いで第一線に立たれていることを知り、胸が熱くなりました」

 

家族の支えで乗り越えられた

塚本さんは2009年に御主人と2人で名古屋から屋久島に移住。それまでは、名古屋大学附属病院に勤務し、内科の看護師として働いていた。移住後は、屋久島町地域包括支援センターを経て、屋久島町役場に5年前から保健師として勤務している。

現在は、7歳になる息子さんと御主人との3人暮らし。しかし今年の春頃は、コロナウィルス関連の対応に追われ、家族と過ごす時間が取れないときもあり申し訳なさを感じたこともあった。そのときは、御主人が理解を示してくれたことで乗り越えられたと振り返る。

「あのときは”今日は何時に帰れるのだろうか”と分からない状況が続いていました。主人が家事をサポートしてくれたことが本当にありがたかったです」

 

『屋久島からのメッセージ』、その裏側で模索する行政の姿

屋久島町は、4月9日「新型コロナウィルス感染拡大における、皆さまへのメッセージ」として、”島外者への来島自粛”と”町民への不要不急の外出自粛”をお願いするメッセージを発表した。しかしその裏側では、行政として、答えのない課題に向き合う難しさやそれぞれの思いがあったという。

「町が独自のメッセージを発表するということは、とても勇気がいることだったと思います。そこにいたるまでには、庁舎内でも沢山の議論があり、何度も会議を重ねました。役場には、島民だけでなく島外からも日々さまざまな御意見が寄せられていました。その一つひとつを受け止め、みんなで考えたメッセージだったのです」

肩書きや立場を超え、島を守るため何をすべきか、何が正解なのかを、手探りで模索していた。

「例えば、町でマスクを確保するときなど、これを購入すると医療現場が困るのではないか?とみんなで話し合いました。私は行政5年目でまだまだ駆け出しですが、町長をはじめ上司達は、意見を尊重し一緒に考えてくれました。それは本当にありがたいことでした」

コロナウィルスを正しく理解することが大事

「もし島内で感染者が確認されたとしてもパニックにならずにいるには、まずはコロナウィルスを正しく理解することが大事です。そして、うがい手洗いはもちろん、体調が悪いときは病院に行く前に一度電話で相談したり、本当に具合が悪い人が受診をためらうことがないような雰囲気作りも感染拡大を防止することに繋がります。離島ということで不安もあるかもしれませんが、県内の離島で最初に確認された和泊町の職員の方が、心よくそのときの状況を教えて下さったこともあり、体制は整っています」

塚本さんの息子さんは、「コロナが終息したら旅行に行きたいね」と夢を膨らませているそう。屋久島も今年は、帰省客も観光客も少ない異例の夏を迎えている。いつかまた賑やかな夏が送れることを、今はただ祈るばかりだ。

(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)

 

  • name:屋久島町役場
  • 住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町小瀬田849-20
  • TEL:0997-43-5900

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