植田珠代さん/テイクアウト専門カフェ「tama cafe TAKE OUT」オーナー

コロナ渦でもめげずにオープン!テイクアウト専門のカフェ

2020年4月17日、コロナウィルスにおける緊急事態宣言発令のなか、屋久島ではひっそりとテイクアウト専門の小さなカフェがオープンしていた。

「大好きな屋久島にお返ししたい!」

縄文杉登山や淀川登山口など、山の入り口である”屋久杉ランド線”を車で数分ほど上がると、白い文字で「tama cafe TAKE OUT」と描かれた木造の建物が見えてくる。

tama cafeの植田珠代さんは、2015年に滋賀県から移住した。登山が好きな知人に影響され、1泊2日の登山にチャレンジするため来島したのがきっかけだったという。

実はそのとき、前日までかなりの悪天候で、山では川が増水し登山道も荒れていた。そのせいもあり、いつもは登山客の多い場所にはほとんど人がおらず、雨上がりの瑞々しい森をゆっくりと堪能することができたという。そんな絶好の条件のなか、翌日には植田さんの人生を変えるほどの景色に遭遇することになった。

「翌朝、山小屋を出て縄文杉まで歩きました。前日までの大雨のおかげで空気は澄んでいて、縄文杉やその周りの植物たちは水を含み、そこに朝日が当たって金色に輝いて見えたんです。もうあまりの感動に、思わず’’屋久島の神様、こんな素晴らしい景色を見せていただいて、ありがとうございます。必ずここでお返しします”と祈っていました」

その誓いどおり、数ヶ月後には移住し、島内の観光業や飲食店で働くことになった。

そして島内での、人との出会いもまた、植田さんが屋久島に惹きつけられる理由の一つだという。

「観光のお客様から、”屋久島の何が一番好きですか?”と質問されることが多々ありますが、そんなとき私は迷わず”人です!”と答えます。初来島から今まで出会った方々は、みんな優しくてあったかい人達ばかりでした。私は、ほんとにこの島の人たちに助けられているんです」

屋久島に初来島したときから、気がつくと6年の月日が流れていた。

「いつか私もカフェを開きたい」、17歳の私へ

植田さんは、カフェを開くのがずっと長年の夢だった。それは17歳のときに患った摂食障害がきっかけだったという。当時、通院のため京都市内に通っていたが、気分転換も兼ねてカフェを廻るのが、唯一の楽しみだった。

「人生の中でとても苦しい時期でした。食べ物を口にすることが困難なときに、唯一食べられたのがカフェのご飯だったんです。これまでカフェは全国1000件以上廻ったと思います。京都のカフェは病院の後に母が連れて行ってくれたのですが、心では辛さを抱えながらも、”いつか私も自分のお店を持ってみたいなぁ”と夢を持つことができたんです」

tama cafeのオープン日は、奇しくもコロナ禍の緊急事態宣言発令日で日本中が静まり返っているときだった。しかし幸いなことに、tama cafeはテイクアウト専門店。不安のなかオープンした初日には、当初想像していたよりも沢山のお客様が来てくれた。

「コロナ禍での新規オープンにも迷いがありましたが、当日にまさか緊急事態宣言が出るなんて。このまま開店していいものか、とても悩みました。でも、いま開店しなければ、カフェを持つことをずっと夢見ていた17歳の私が泣いている。そう感じて、思い切ってオープンしたら、そんなときにもかかわらず沢山の方が来てくれて。とてもありがたかったです」

大好きな屋久島の食材を使って

とにかく食べることが大好きだという植田さんは、昔から料理を作ることも好きだった。高校卒業後は、いつか自分のカフェを持つために、フードコーディネートを学ぼうと専門学校へも通った。そのとき学んだことや、飲食店勤めで得た経験をベースに、様々な試行錯誤を繰り返し、念願のカフェでは2種類の食事と、数種類のスイーツ、島内の珈琲焙煎店の珈琲など様々なドリンクメニューも用意している。


「屋久島産の食材を1人でも多くの方に食べていただきたいなと思い、メニューはなるべく島のものを使っています。鹿の骨でスープを取った”グリーンカレー”が定番で、”鹿肉のホロホロトマト煮込みシチュー”、”島バナナのケーキ”、季節の果物を使った”自家製酵素ジュース”など、そのときに採れる食材を中心にお出ししているんです」

「ほんとに静かなカフェやなぁ」

オープンからもうすぐ一年。コロナ禍のおかげで、今はまだ観光客は戻り切らず、本格的な繁忙期はまだ経験していない。「ほんとに静かなカフェやなぁ」植田さんはときどき、1人でそう呟くことがあるという。しかし、いつかお店の前を通る屋久杉ランド線に、毎日沢山のレンタカーやバスが行き来するようになたったら、きっとtama cafeの前には、テイクアウト容器を手に持った人々で賑わうのだろう。17歳の植田さんの笑顔が目に浮かぶようだ。

(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)

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