内田広秋さん/ヒロベーカリー

のどかな住宅街で31年続くパン屋さん。
大人気の”米パン”は島外からの注文も!

島の東、安房集落のシンボル明星岳の麓にある安房小学校。登下校するランドセル姿の子供達を見守るかのように、そのすぐ近くに”ヒロベーカリー”は建っている。店主の内田広秋さんは、31年間ほとんどひとりでその味を守り抜いてきた。

「私が店を始めたとき、この辺は店らしい店はほとんど無くてね。団地はあるけど、家もまばらで寂しかったんですよ。ここでみんなにパンを届けられたらなぁと思って始めたんですが、最近は家が増えて随分賑やかになりました」

誕生日プレゼントは「パンが欲しい」。

内田さんは、島の北側に位置する宮之浦集落出身。幼い頃からパンが大好きだったという。

「昔からずっとパン屋になりたかったんですよ。父親に、『誕生日プレゼントは何が欲しい?』と聞かれると、必ず『パンが欲しい』と答えるほどでした」

内田さんが生まれ育った宮之浦集落には、”木村屋(2017年閉店)” という御夫婦で営む小さなパン屋があった。そのパンを食べて育ち、「いつか自分もパンを作りたい」との夢を思い描いていたのだという。

店内には毎日約80種類のパンが並ぶ。

ヒロベーカリーはAM7時に開店する。早朝4時から生地の仕込みが始まり、19時30分まで、ほとんど厨房に立ちっぱなし。「パン屋は体力がいる仕事ですよ」と笑うが、好きじゃないとできない仕事だ。内田さんは、修行時代も含め、人生の大半の時間はパン生地を捏ねていることになる。屋久島高校を卒業し、東京のパン屋で10年ほど勤めた後、鹿児島のパン屋で3年、菓子店で1年の修行を終えて帰島したというが、それでも内田さんはこう話す。

「もっとパン屋で修行をしたかったですね。あと2.3軒パン屋に勤めてから、島へ帰れば良かったなと思うこともありますよ」

日々試行錯誤を繰り返して、これまで100種類以上のパンを作ってきた。そのうち、店内に並ぶのは毎日約60〜70種類だという。かつて修行時代に一緒に働いていた島外の友人たちとの情報交換を行いながら、試作と商品開発を行っている。

人気NO1の米パン。こんがりの中身はしっとりふわふわ。

なかでも、1番人気なのが米粉を使った”米パン”。
焼き上がったらすぐに売り切れてしまうことも多く、島内でも遠方から訪れるお客さんなどは一度に沢山購入するお客様もいるほど。島外から電話注文を受け、箱いっぱい詰めて送ることもあるという。

「うちは添加物をなるべく入れないようにしてるんです。米パンは、友人からヒントを得て作ったのですが、自分なりに”これだ”と思う生地ができるまでは試作を繰り返しました」

こんがり焼き色のついた弾力のある外側を切ると、しっとりふわふわきめ細かい絹のような生地が広がり、お腹いっぱいでもついつい口に運んでしまう。

ちなみに、内田さんの好きなパンを聞いてみた。

「実は、フランスパンが1番好きなんです。でも、島ではフランスパンを買う人がなかなか安定しないんですよ。他のパンもそうですが、沢山作って並べても売れ残ってしまうこともあるし、逆に足りない日もあったり。毎回こればかりは分からないなぁと思いますね」

離島は船が止まると、食糧が入らなくなり、スーパーの棚から真っ先にパンが消える。そんなときに備えて、材料を確保しておいたり、いつもより多めにパンを作ったりするが、それも完売するとは限らず、毎日が手探りだという。

何もかも恵まれた。全ては人のおかげ。

そんな内田さんだが、屋久島でパン屋を開店させたいとの思いに、その苦労を想像したお母様が、当初は反対したのだという。しかし、それでも小さい頃からの夢を実現させたいと、内田さんは全て1人で立ち上げた。

「同じ島内でしたが、当時は安房に知り合いはほとんど居ませんでした。土地を購入して整地し、まさにゼロからのスタート。それでも31年間やってこれたのは、コツコツ築いてきた人との繋がりや、来てくれるお客様のおかげ。母も喜んでくれました。今では自分の家族を持ち、子供達も大きくなり、これまでを振り返ると自分は何もかも恵まれてたなぁと思います」

今日も町のパン屋さんにはひっきりなしにお客さんがやってくる。地元に愛されるパン屋の店内には、焼き立てパンの優しい匂いが立ち込めている。

(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)

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