吉良和斗さん/手打ちそば「きらんくや」 

水の美味しい屋久島で、手打ちそばを!

鬱蒼と草木の生い茂る、海沿いの細い道を進む。道脇に立つ「きらんくや」と書かれた木看板を目印に、民家を数軒通り過ぎると、ひっそり佇む隠れ家のような店が現れた。まるでこっそりと営業しているかのように、赤い暖簾が小さく潮風に揺れていた。

吉良和斗さん/手打ちそば「きらんくや」 

安房集落にある蕎麦屋「きらんくや」。御主人の吉良和斗さんは、奥様と2人で東京から移住し、13年前にきらんくやをオープンした。もともと田舎が好きで、当時勤めていた会社を早期退社し、新婚旅行で訪れた屋久島に住むことに決めたという。

「都会では気を張ってたけど、屋久島に来てからはのんびり、楽に過ごしています」

落ち着いた雰囲気で、食べる蕎麦の味

きらんくやの店内は、ジャズが流れ、落ち着いた雰囲気でお蕎麦が愉しめる。店舗の設計や、家具のリメイクは吉良さん自らが担当。香柿色の家具には趣のある骨董器が並んでいる。昼どきになると、店の前の小さな駐車場には車がびっしり並び、夜は一品料理と蕎麦そして島では珍しい日本酒を片手に、しっぽり大人の時間を過ごそうと、粋な空間を求めてお客様がやってくる。

吉良和斗さん/手打ちそば「きらんくや」 

もちろん蕎麦は手打ち、毎日打っているという。蕎麦の出汁は、北海道産の昆布、鹿児島産のかつお節、屋久島産のサバ節を使用。水が綺麗じゃないと蕎麦屋はできないと聞いたことがあるが、軟水で豊富な水を誇る屋久島で作られる蕎麦は、のどごしが良く、食べやすい。

吉良和斗さん/手打ちそば「きらんくや」 

実は屋久島は、これまで”蕎麦を食べる”という文化が、ほとんどなかった。店舗を建築する際、地元の大工さんにも「ここでは蕎麦は食わん。うどん屋をやれ」と言われるほど。確かにオープンしたばかりの頃は、お客様は移住者ばかりだったという。しかし今では、移住者のみならず、観光客、そして地元のお客様もが店内を賑わせ、ほとんどのテーブルから蕎麦をすする音が聞こえている。

吉良和斗さん/手打ちそば「きらんくや」 

「うちは町の蕎麦屋。気軽に蕎麦を食べに来てほしい」

無口な吉良さんが口を開いた。屋久島は、ちょっと外に出ただけで、日常の中に自然を感じる。移住して13年、ほとんど毎日蕎麦を打ち、出汁を取る日々。せわしない都会での生活に比べ、今の人生が幸せだと、蕎麦を打つ吉良さんの横顔が語っていた。

(取材: Written by 散歩亭 緒方麗)

きらんくや

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