藤森敏宏/「レストラン パノラマ」オーナーシェフ
海と旅を愛する料理人が創り上げたのは、旅人と島人が憩う多国籍レストラン
藤森敏宏さんが料理人を志したのは、サーフィンに夢中の19歳の時。ワーキングホリデーで滞在していたオーストラリアでのこと。サーファー仲間に誘われ、ホテルの厨房で働いた経験がきっかけだった。
手に職があれば、世界中どこでも、波のいい場所で働くことができる。帰国して、飛び込んだ料理の世界は、厳しいながらも学びに満ちた刺激的な場所。続けるほどに「口べたな自分にはこれしかない」と思えてきたという。
割烹寿司店や焼き鳥店で研鑽を積んだのち、念願の海外勤務も経験。リーマンショックのあおりを受けて帰国していた頃、屋久島のリゾートホテルが立ち上げスタッフを募集していることを知った。
「(サーフィンで有名な)種子島や奄美大島についても調べましたが、『水がおいしい』という1点において、強く惹かれるものを感じ」屋久島行きを決断した。
初めての屋久島は、想像を上回る食材の宝庫だった。「島だから、魚は獲れるのかなと思っていたけど、魚種が豊富で、地元産の新鮮な野菜も手に入る。高級魚が、地元福岡の5分の1、10分の1の価格で売られているのにも驚きました」。生産者との距離が近く、葉っぱや花、野菜や果物がどんな風に育てられているのか、1年を通じて、食材の全体を目にすることができるのも新鮮な喜びだった。
仕事を通じて知り合った、恵理さんとの結婚と子どもの誕生をきっかけに、「この島で子育てをしていきたい」と、独立。島で最も人口の多い宮之浦集落の商店街に「レストラン パノラマ」を開店した。
名前の由来は、商店街に向かって全面に大きく開いたガラス張りの入口。周囲には、宿泊施設も多く、開放感あふれる雰囲気の中、旅人と地元客でにぎわっている。
料理は、和食にとどまらない多国籍。
つままで神経の行き届いた刺身盛りや、自家製のアンチョビを使ったバーニャカウダ、洋の食材を取り入れた茶碗蒸しなど、ひと皿ごとに、藤森さんの来し方が垣間見える。「海外で働きたい、旅をしながら仕事したい、と思ってきたけど、世界中からこの店に旅人がやってきてくれるので、若い頃の願いが叶ったと感じています」と話す。
新たなチャレンジとして、子どもたちを対象とした食育イベント「0からレストラン」も計画中。収穫から料理までを体験することで、「食」に興味を持ってもらえるようなプログラムで、地域との結びつきを深めていきたいと考えている。
(取材:一湊珈琲編集室 高田みかこ)
レストラン パノラマ
- 鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦60-1
- TEL.0997-42-0400
- 営業時間: 18:00~23:00(22:30L.O.)、水曜定休
- http://panoramayakushima.com/