辻美穂さん/森林セラピーガイド
“森は科学”。科学的エビデンスに基づいた森林浴で、人の心と身体を元気にしたい
道路脇の草むらをかき分け、ひんやりした森に足を踏み入れる。そこには植物同士が支えあって生きる、調和の世界が広がっていた。
「森は科学なんですよ」
そう話す森林セラピーガイドの辻美穂さんは、9年前に兵庫県から屋久島へ移住した。森林セラピーガイドとして活動することになったのは約2年前。移住前には山小屋で住み込みで働いていたこともあるほど、山が好きだという。
森には、人間の心を癒し健やかな身体へと導く力があるという。これは、医師や研究機関により、科学的に証明されている。辻さんが案内する森林浴ツアーは、もともと林野庁が発表した”森林セラピー基地構想”を具体化した、『科学的エビデンスを持ち、予防医学的効果を目指す森林浴』を元に作られたもの。
お客様が気持ちいいと感じる場所で深呼吸したり、簡単なストレッチやヨガなどを行い、お客様の体調や求めているものに合わせてメニューを組む。ときにはハンモックに寝そべったまま、ぐっすり眠ってしまう方もいるという。
“森を歩く”といっても、長い距離を歩いたり、森の奥深く入るということだけではない。道脇から少し入ったところに、多様な生態系が息づく美しい森が広がっているのも、屋久島の魅力のひとつだと語る。
「森の中は、”菌根菌ネットワーク”という、樹の菌糸同士が繋がり、森を繁栄させたり維持させたりするためのコミニュケーションを取っているといわれています。まるでAIのように、森じゅうにこのネットワークが張り巡らされているんですよ。つまり、森では競争ではなく”共存”が繰り広げられています。また、植物が傷つけられた際に出す強い殺菌物質であるフィトンチッドは、人間にとっては健康を維持し、癒しや安らぎを与える効果もあることが分かっています。まさに森は科学なんですね。屋久島はその宝庫です」
森の中で本来の自分を取り戻す
「ところで、森の中でごはんを食べたことありますか?」ふいに、辻さんにそう聞かれた。
「森の中でごはんを食べるとね、いつもよりずっと美味しく感じるんですよ。お客様と森でお弁当を食べると、お米ってこんなに甘いんだって驚かれます。森に入ると、一つひつの食材の素朴な味や、作り手の優しさがより伝わって、なかには泣き出してしまうお客様もいるくらいなんです」
初めは疲れた顔で森に入るお客様が、森から出る頃にはスッキリした表情に変わっているのを、辻さんは何度も見てきたという。
「お客様は、それぞれ悩みやストレスを抱えていらっしゃいます。屋久島の豊かな森に入り、植物の景色や、川や鳥の音などに包まれ、五感を研ぎ澄ますと、これまで気付けなかった心の声を見つけ本来の自分を取り戻して帰っていかれます」
実は、辻さんは、森林セラピーガイドの他にダンス教室の主宰として、島内の子供達や女性に向けてジャズダンスや筋トレ教室を開催している。
「全く別の仕事内容のようですが、”人の心と身体を元気にしたい”という意味では同じですね」
はつらつとした辻さんの笑顔に導かれて、森を歩いた。気付くと、時間を忘れて長いこと森で過ごしていた。
(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)
森呼吸 屋久島 shinrin-yoku Kou-dance
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