安部心也さん/黒潮キャラバン

民謡×シンセサイザー、古きと新しきの融合音楽

長閑な春の屋久島。川沿いの道に腰掛けて、ゴッタン(南九州の民族楽器)を爪弾く人がいる。

「文化は、都会に集まるって思われてるかもしないですけど、そんなことないよって思うんですよ」
そう語る安部心也さんは、横浜市で生まれ育ち、9年前に義父の故郷である屋久島に移住した。一度は離れることを考えた音楽の仕事は、島内のイベント音響をはじめ、予想外に依頼も増え、今も続いているという。
移住のきっかけは、奥様とインド旅行をしていたときに日本で起こった東日本大震災だったという。奇しくも海外から日本の大惨事を目の当たりにし、そこで錯綜する情報が異なっていたことが、人生を考え直すことへと繋がった。
「日本メディアと海外メディアの報道内容が全く異なっていたことで、何を信じていいのか分からない状態でした。”これはもう誰にも頼れないな。この世はサバイバルなんだな”って思ったんです」
帰国し、都会からの新天地を求めて安部さん夫婦が選んだのが屋久島だった。
「屋久島は、”水がきれい”というのが一番の理由でしたね。ここでは、インフラを見知らぬ誰かの手に依存してしまうことなく生きていける可能性があるんです。数ある島でも意外に水に困らない島というのは、少ないですよ」

民謡から湧き上がる”地“のエネルギー

安部さんは、島の民謡とシンセサイザーを組み合わせた、『黒潮キャラバン』という名称の音楽ユニットで活動している。昔から民族音楽が好きだったこともあり、島に来てから、この土地で生まれた音楽を探していたところ、屋久島の民謡が録音された1枚のCDに出会った。

自身も演者として島の音楽イベントなどで演奏する際、友人達と「せっかくなら地元の歌をやろう!」と、山仕事に従事する人々の間で歌われていたという民謡”木挽唄”を取り入れたことを皮切りに、島の民謡の足跡を追いかける日々が始まった。介護施設で島の古老たちと一緒に民謡を歌ったり、途絶えそうになっていた民謡”まつばんだ”を有志数人と歌い継いでいく活動をしたりと、その裾野は広がりを見せている。
「民謡には、”地の力”、つまりその土地から湧き上がってくるエネルギーを感じます。僕は、音楽プロデューサーやディレクターという仕事なので全体を監督のような目線で見ることが多いんです。黒潮キャラバンで演奏する音は、シンセサイザーの音と民謡が意外にもよく合って面白い組み合わせだなぁと感じますね。あと、演奏するといろんな人たちに声をかけてもらうから、そこから広がるコミュニケーションも楽しいですよ」

語る安部さんの傍には、ゴッタンという南九州の民族楽器が、相棒のように置かれている。なんでも安房集落に住んでいたお婆さんが所有していたものが、回り回って安部さんのもとへやってきたという。
「都会育ちの僕には、これまで無かった感覚だけど、自分の住んでいる場所に愛着を持ちたい」
安部さんが演奏する、古きと新しきの融合音楽は、屋久島へ新しい文化をもたらしてくれるだろう。

(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)


name:黒潮キャラバン屋久島古謡
住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町宮の浦
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