小野クリスティンさん/動物愛護団体「やくしま 幸せのしっぽ」代表

もし私たちが毎日ひとつの親切な行為をするならば
私たちは世界を正しい方向に導けるかもしれない

動物愛護団体「やくしま 幸せのしっぽ」によるTNRが、屋久島でスタートして1年を迎えた10月、避妊去勢手術の件数は、935匹に達した。 TNRとは、Trap(捕獲して)Neuter(避妊去勢手術をして) Return(元いたところに戻す)の頭文字。 避妊去勢手術をすることで、近所トラブルを防ぐことができる他、発情期の鳴き声やけんかを抑える効果も期待でき、「飼い主のいない猫」に関する苦情を減らすことにもつながるとされている。

麻酔中に片耳の先に付けられた桜の花びらのようなV字の切り込みが、手術済みの目印。人間社会の片隅でノラ猫が生きていくためには、避妊手術を施し、これ以上増えないようにする必要がある。耳先の切り込みは、命の尊厳と、「この猫には世話をする優しい人間がいる」というしるし。これ以上増えないと周囲に伝われば、排除や殺処分する必要もなく、「地域の猫」として、見守られながら一代限りの命をまっとうさせることができる。

「幸せのしっぽ」は、個々人でのら猫の保護や避妊手術、猫の引き取り手探しをしてきた島の愛猫家が、2019年2月に結成。 「犬猫と共生できる社会をめざす会 鹿児島」(鹿児島市)の杉木和子代表、「ル・オーナ ペットクリニック」(鹿児島市)の濱崎菜央院長の支援や協力のもと、昨年10月から毎月TNRを行い、設立から2年足らずで、目覚ましい実績をあげている。

手術は月に一度だが、代表であるクリスティンさんに休みはない。 仕事や子育ての合間に、地域猫のコロニーを見回り、ノラ猫に餌をやる「えさやりさん」を訪問。さらに地域住民の理解を求めるべくパンフレットを配布し、時にはフェアも開催する。活動資金を集めるための、猫グッズ製作や販売まで、文字通り、寝る間も惜しんで働いている。

「もともと、猫好きというわけではなかったけれど、子どもたちが仔猫を拾ってきたのをきっかけに猫を飼い始め、ノラ猫の置かれている過酷な環境に興味を持つようになった」というクリスティンさん。 好奇心旺盛で、人と話すのが大好き。仲間と共に、「えさやりさん」をはじめとして、役場や保健所、集落の区長など、多くの島民と対話を重ねながら、協力体制を築いてきた。

大変なこともあるけれど、子どもが自らの意思でおこづかいを募金したり、頑なだった「えさやりさん」が少しずつ心を開いてくれたりすることが、クリスティンさんの励み。 結婚を機に屋久島に移住して16年。「自分たちはヒーローではないけれど、ひとつひとつの親切な活動が、この島を良くしていく」と信じている。

(取材:一湊珈琲編集室 高田みかこ)

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