山と人の心を彩るヤクシマシャクナゲ

5月になるとソワソワし出すのは、シャクナゲを想ってのこと。
「今年のシャクナゲはどうかな?」そんな会話がちらほら聞こえてきます。

今年は様々な花の開花が早く梅雨入りも早かったので、一体いつ頃咲くのか?晴れた日にシャクナゲに会いに行けるのか?シャクナゲファンの一人としては、気が気ではありません。

屋久島でシャクナゲといえば、山岳部に見られるヤクシマシャクナゲ。屋久島の固有種であり、屋久島町の花にも選定されています。標高1000mから山頂付近に見られ、黒味岳や宮浦岳、永田岳周辺が有名ですが、太忠岳山頂付近にも咲いています。これらのエリアでは毎年5月末から6月上旬に咲きますが、なんとゴールデンウィークに咲くエリアがあるという話を聞いて行ってきました。

その場所はというと、七五岳です。
本当に咲いているのだろうか、とあまり期待せずに行ってみると、なんと本当に咲いているではありませんか!一株だけでしたが、確かにそこにはヤクシマシャクナゲの上品な姿が。突然現れたので一瞬幻かと思いましたが、期待していなかった分ご褒美のような嬉しさが込み上げてきます。ひっそりと静かに咲く七五岳のシャクナゲ。おそらく山岳部でのヤクシマシャクナゲの開花はこちらが一番早いと思います。

さて、大本命の奥岳のシャクナゲも見に行ってみましょう。こちらは例年通り5月末から見頃となりました。樹林帯にもシャクナゲの木はありますが、花がついている木は稀で森林限界を超える投石平付近から花が増えてきます。登山道沿いにもたくさんのシャクナゲが咲いているので、すぐ側で花を見ながら歩ける嬉しさに足取りが軽くなります。

屋久島の山岳部に咲く花は小さな花が多く、ヤクシマシャクナゲほどの大きなサイズは珍しいため、シャクナゲが咲くとなんとも華やかな世界が広がります。遠くから見るとくしゃくしゃっと丸められたティッシュが付いているように見えますが、近くで見ると下部が膨らんだ美しい鐘状のフォルム。スカートがふうわりと風を含んで広がったような軽やかさも感じられます。シャクナゲは1つの花芽から5-12個の花が咲くのでボリュームがあってゴージャス。なんとも品があり、優雅なその有様にうっとり。まだ硬そうな蕾、花開く直前の蕾、咲いた花と、様々な状態のものが混在しており、花が咲く過程が見てとれるのでとても愛おしく感じます。シャクナゲは強い香りはしませんが、鼻を近づけてみるとかすかに甘い香りがします。

シャクナゲの魅力は、その色合いにもあります。蕾の頃は、ローズピンク、咲き始めは薄ピンク、そして、段々と白っぽくなっていきます。同じ株でも開花のタイミングは花それぞれなので、ピンクのグラデーションが絶妙な美しい色合いを醸し出しています。桜もそうですが、ピンク色というのはなんとも幸せな気持ちにさせてくれます。更に光が当たった時の美しさといったらありません。

ヤクシマシャクナゲの面白さは、標高によって木の背丈や葉の大きさが変化するところ。樹林帯で生きている木は光を求めてグングン背を伸ばし、2-3mほどに成長します。必死に光合成しているのでしょう、葉は平らで大きく広がっています。一方で、森林限界を超えると背丈は0.5-1m程度と低くなります。強風から身を守るためか葉は小さくなり縁は反り返っています。また葉の裏側には淡褐色の線毛状の毛が生えていますが、こちらも標高が上がるにつれ毛が増えていき高山地帯では寒さに耐えられるようにフカフカのフリースのような肌触りになります。

置かれた環境に適応して命を繋ぐシャクナゲを見ていると、私たち人間にもその柔軟性や適応能力の重要性を感じさせられます。
「置かれた場所で咲きなさい」
という言葉があるように、自分の力でもどうにもならない環境の中では、環境が変わるのを待っているのではなく、自分自身がその環境に適応していく柔軟性を問われているのかもしれません。どこで咲いていようとシャクナゲがシャクナゲであることに変わりがないように。

5月末の時点では蕾もたくさんありましたので、6月上旬はまだシャクナゲ登山を楽しめると思います。梅雨の晴れ間を狙って是非シャクナゲに会いに行ってみてください。

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