世界自然遺産30周年 白神山地と屋久島の初夏
YAKUSHIMAFILMの松田です。
1993年に屋久島と白神山地が日本初の世界遺産に登録されて30年の月日が経とうとしています。6月初旬、ガイドの交流と現地での体験を目的に屋久島山岳ガイド連盟のメンバーで青森から秋田にまたがる白神山地へ研修に行ってきました。
梅雨の走りの屋久島では600㎜を超える激しい雨が降り『雨の島』の本領を発揮していましたが、梅雨前線から逃れるように北上した秋田へのフライトでは秋田のシンボルの鳥海山(2,236ⅿ)はまだ残雪が残り、初春の装いを見せていました。
6月初旬、新緑がひと段落した屋久島の奥岳エリアではヤクシマシャクナゲが咲き乱れ梅雨の訪れを知らせてくれます。
一方、青森と秋田を跨ぐ白神山地では高標高エリアでは残雪が残り、ブナの新緑がまだ美しく他の広葉樹も新芽を覗かせたり花を満開に咲かせていて鮮やかで新鮮な印象をうけました。
雪解けとともに様々な生命が爆発的に動き出し、草木は芽吹き、クマは冬眠から目覚め、鳥やカエルたちには恋の季節が到来します。
白神の森の印象は『明るい』と『豊か』という2点です。
屋久島と白神の決定的な違いはブナの有無です。屋久島には日本の温帯林のコアをなすブナがないので杉や照葉樹からなる多様な森が存在します。一方の白神はブナという極相林をなす強力な種がいるため森林の構成はブナが主になり他のミズナラや朴、トチなどが混ざる落葉樹となっています。
落葉樹は秋に一斉に葉を落とすので葉の消費期限は数か月のため薄い葉を作ります。そのため屋久島のような鬱蒼とした空気感は少なく、光が林床まで達し『明るい』森を作ります。また秋田県はほとんどシカがいない(温暖化により北上して入ってくる個体は増えている)ので林床の植物たちは食圧が低く、たくさんの植物が森全体を埋め尽くしています。
ブナは秋にたくさんの実を落とします。その実はクマを始め様々な動物たちの冬前の貴重な食料になります。また落葉が溜まった土壌はエネルギーに満ち、豊かな土壌と水は様々な山菜を育みます。科学的根拠はないのですが、北国の山菜は味が良いとされています。初夏の森ではタケノコ(根曲竹)、ミズ(ウワバミソウ)、フキなどが獲れ、山に登りながら食料を調達するという東北ならではの登山を体験しました。
森を歩き、現地のガイドやマタギの方々と交流する中でみなさん『水』というものを大切にしているなと感じました。ブナからなる東北の山々、ブナは水が好きな木材で落葉が作り出す土壌も保水力に優れています。ブナの葉脈はへこんでおり、降った雨を効率的に集め葉から枝へ、枝から幹へ川が段々と大きくなっていくかの如く水脈は大きくなり根元にたくさんの水を集めます。また腐葉土の多いブナ林の土壌は団粒構造がしっかりと形成され乾きにくく保水力に富み、ブナの森は緑のダムと呼ばれます。
花崗岩からなる屋久島の土壌は瘦せており、大量の雨は島全体が滝のごとくあっという間に岩肌を流れ海に帰ります。しかし、そのような厳しい環境が屋久島独自の苔むした数千年の森を育みます。
屋久島の森の特徴は『重さ』であると思います。まとわりつくような湿度を含んだ濃厚な空気の重さ、様々な樹種の木々と苔に覆われた薄暗い森の重さ、数千年という年月を越えて尚生き続けているヤクスギたちの過ごしてきた時間の重さ。
似ているところもあり違うところもある。『明るさ』『水』『重さ』『豊かさ』
これらの言葉では形容できないような屋久島と白神の森。
幾重にも重なった命と時間が織りなす豊かで生を感じることのできる場所
そんな場所を守り続けるために、ヒトも自然も変わらずに、変わり続ける。
世界遺産30周年を機にぜひ屋久島と白神山地、両方へお越しください!