8年ぶりの満開の石楠花を求めて

ヤクシマフィルムの松田です。5月のミツバツツジ時期が過ぎると次はいよいよシャクナゲの季節の到来です。シャクナゲは屋久島の山岳に欠かせない花で、御岳にお参りをする岳参りの際にも重要な意味をもつ屋久島を代表する花です。

シャクナゲの開花は表と裏があると言われ、毎年の開花数に違いがあります。確証はないですが、3年あるいは8年の周期で大当たりの年が来ると言われており、自分が移住1年目の2016年に初めて見た奥岳のシャクナゲは、山をびっしりと覆い尽くすほどでした。それから8年間、そのときを越すときを未だ経験していませんでした。

シャクナゲは夏の終わり頃に花芽をつけ、厳しい冬を超えて旧暦の夏至(5月29日)の頃に花盛りを迎えます。昨年秋から8年前に並ぶような花芽の多さに期待を寄せていて、いよいよ開花の季節がやってきました。今年のシャクナゲの咲き始めは4月末で例年になく早く、5月中旬には見ごろを迎えるところもあるほどでした。しかし、一斉に咲かないのがシャクナゲの奥ゆかしいところで、同じ場所でも満開の株もあれば蕾の株もあり長く花を楽しむことができます。

また、一株の中でも朱色の蕾から薄ピンクの咲き始め、花の広がった終わりの頃には白と、日毎に花の色が変化していきます。グラデーションが非常に美しく、まるで何種類もの花が咲いているかのような彩を見せてくれます。

山岳信仰の対象の厳しい奥岳の世界が、初夏の時期はとても鮮やかな天国のような世界になります。女人禁制の時代、写真もない時代の島民にとって、里から見えない奥岳の世界や深い森の中にしかないシャクナゲは特別な存在だったのではないでしょうか。

個人的には白色のシャクナゲが月夜に照らされ浮かび上がる光景が好きです。シャクナゲを通して月の明かりや温かさ感じ、まだ肌寒くも夏に近づきつつある夜を感じられる貴重な時間です。

あと何度この大当たりの年に奥岳を歩くことができるのか。自然のサイクルの中で人間の一生の儚さも感じます。

また、雨の日のシャクナゲも美しいです。シャクナゲの花の咲き方を見ていると、冬の風雪が厳しいようなところの方がよく花を咲かせています。ヒマラヤ原産の植物なので寒さや厳しさには強いのかもしれません。雨の稜線は厳しく、初夏といえど低体温症のリスクもあります。しかし、梅雨の始まりの頃に咲くシャクナゲには雨がよく似合います。雨の雫を纏い輝く花たちには強さと儚さが感じられ、より一層1つ1つの株のシャクナゲという存在を浮かび上がらせてくれます。

6月に入りましたがまだシャクナゲを楽しむことはできます。ぜひ屋久島人の愛するシャクナゲ登山をお楽しみください。


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