若松大介さん/屋久島犬保存会 会長
純血の屋久犬を求めて日々奔走
追い鳴き、鳴き止め。これは、屋久犬が獲物を仕止めるときの言葉。屋久島猟師達の相棒は、赤茶色の艶やかな毛を身にまとい、無駄のない筋肉質な胴体で、屋久島の険しい山の中を駆け回る。
「屋久犬は、屋久島の財産です」
そう語るのは、屋久犬保存会会長の若松大介さん。屋久島固有の猟犬”屋久犬”の純血種を求めて、日々奔走している。
若松さんは安房集落の出身。高校から鹿児島市内へ出て、卒業後は東京の建設会社に入社。
国内のみならず海外でも仕事をしていた。その後、22 歳で帰島したのを機に「絶対に屋久犬を飼おう!」と心に決めたという。
「僕は物心ついたときから、犬が大好きだったんです。小さい頃、猟師のおじさんがトラックの荷台に猟銃を乗せて、その横を屋久犬が走って追いかけるという光景をよく見ていました。その姿がすごくかっこよかったんですよ。
子供ながらに、『あ、この犬は他の犬とは違う』と感じていました」
屋久犬は、猟犬として非常に優れた能力を持つことから、全国の猟師たちのなかでもファンが多い。
しかし、今では純血の屋久犬はほとんど出会えないという。その理由は、ひと頃の洋犬ブームで”屋久犬×洋犬”など他種と交配させたブレンド犬が増えたことと、ある事故がきっかけで安房集落の猟師たちが一斉に猟銃を持たなくなった事が関係しているという。
純血の屋久犬を求め調べていくうちにその事実を知った若松さんは、全国に広がる猟師のネットワークを頼りに、なんとか真の屋久犬を取り戻したいと、根気強く探している最中だ。
「かつて屋久犬は、猟師達の間でやり取りされていました。だから、もしかしたら日本のどこかに純血の屋久犬を飼っている人がいるかもしれません。
ですが、屋久犬の価値を分かっている飼い主は、犬を守るために素性を簡単には明かしません。かつては島でも猟師達が『オイの犬は馬鹿犬やからよ』などという表現で自分の犬を謙遜し、軽い気持ちで近づいてくる人を寄せつけないようにしていました。昔からこの島の人たちは、良い犬ほど人前に出さなかったんです。現在は、”戻し交配”を行い、少しずつですが 75%ぐらいまで屋久犬の血が戻ってきています」
純血の屋久犬って何なんだろう?
若松さんは「今じゃその犬を見るだけで血統図が描ける」と笑うが、その情熱たるや周りに「バカ」と言われるほどだという。
犬に何か異変を感じると一晩中添い寝をしてあげたり、お小遣いのほとんどを犬に注ぎ込んだり。
そして、「何のために猟犬飼ってるの!」という奥様の快い一声に後押しされ、猟師免許も取得。
屋久犬の本来の姿が見たいがために猟をするのだという。これらも全て屋久犬好きが高じてのこと。
しかし、そうすることで犬は主人に心を開き、確かな信頼関係を築くことができるのだという。
「僕は時々、『純血の屋久犬って何なんだろう』と考えます。屋久犬を知れば知るほど、その奥深さに惹かれていくんですよ。屋久犬を尊敬しているんです」
屋久犬は、その姿形の精鋭さもさることながら、いち早く主人の気持ちを理解するとても頭のいい犬だという。
常に主人の居場所を意識し、また自分の居場所も主人に知らせる。同時に、帰巣本能も強いため屋久島の深い山に入っても必ず帰ってくるのだとか。
“風をとる”とは屋久犬だけに使われている言葉だという。高鼻で獲物の匂いを嗅ぎ分ける屋久犬特有の習性のことだ。いつか、この深い自然が育んだ、純血だけが持つ野生の本性を見てみたい。
(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)
屋久島犬保存会
- 住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町安房
- お問合せ:info@hitomekuri.com