『台風一過』

『台風一過』という言葉を使ったことのある人は多いのではないでしょうか?屋久島ではその言葉の意味を強く感じます。これからの季節、切っても切り離せないのが『台風』です。先日の台風10号は気象庁がいままでになく警戒を呼び掛けていたこと、勢力が急速に弱まったことでニュースになるような大きな被害はありませんでしたが、島の一部地域では屋根が飛んだり、果樹や野菜などに少なからず被害が発生しました。

台風のエネルギーは凄まじく、遠くにあってもうねりは海を渡って押し寄せ、東シナ海にそびえ立つ屋久島の大地に当たり砕けていきます。

台風というとネガティブな印象が多いですが、自然にとってはポジティブな側面もあります。

『風』は森の木々をなぎ倒します。台風後は大木が倒れ、葉っぱが飛び散り一晩で環境ががらりと変わります。倒れるのは屋久杉とて例外ではなく数千年の命の終わりをむかえるものたちもいます。しかし、大木が倒れた場所は森の中まで光が入り込み新しい命が芽生え、森が世代交代する大切な場所となります。

『雨』は大地を洗い流します。川はものすごい勢いとなり海まで一気に水を吐き出します。数日もすると水量は戻るのですが、増水時に川底の堆積物などは押し流され台風前より綺麗な状態になります。いわばデットックス、留まっていたものがなくなり水は生き生きと清らかに流れます。

『波』は海をかき混ぜます。ここ数年屋久島近海の海水温は高く、珊瑚たちがどんどん死んでしまっています。台風は上がりすぎた水温を下げる効果があり、多様性を維持するために必要不可欠です。
人間目線では被害(破壊)であっても自然にとってはリフレッシュ(再生)なのかもしれません。ガイドとして自然と深く関われば関わるほど台風や大雨無くして、健全な森や川や海はないと思えてきます。
台風の接近に伴い刻一刻と変化していく空気、手慣れた様子で台風養生する島民たち、通過後のすっきりとした空など、自然が身近だからこそ大きなエネルギーがもたらす『起承転結』を感じることができます。
自然にとって破壊と再生は表裏一体、台風通過時は風雨に耐え忍び祈るしかないですが、台風一過にはより生き生きとした自然を体感できるはずです。わが家ではうねりと共に波と戯れ、電気がつかない環境だからこそ火で米を炊き、手しごとに精を出し、台風一過には何事もなかったことに安堵し、秋を感じる風に心はスッキリし、より家族の絆が深まったように思います。台風10 号で被害を受けられた屋久島および全国のみなさんの一刻も早い復興を願います。

関連記事一覧