今村祐樹さん/モスガイドクラブ・モスオーシャンハウス 代表

持続可能なツアーカンパニー。
水の循環を里から海へ、気持ちよく手渡せるように。

目の前に広がる空と、遠くの水平線を仰ぐ。ここは豊かな“暮らし”を味わう場所。

「僕達は、一緒に屋久島の風景を作っていく仲間が欲しいんです」

そう語るモスガイドクラブ&モスオーシャンハウス代表の今村祐樹さんは、2002年に大阪から移住した。大学時代は民俗学を学び、卒業後に中医学の世界に飛び込んだが、小さい頃よりずっと感じていた「自然を知りたい」との思いにかられ、仕事を辞めて沖縄へと旅に出た。屋久島との出会いは、長期滞在した沖縄からの帰り道だったという。

「屋久島へ着いてすぐに、宿泊施設に住み込みを始めました。しばらくして慣れてくると、お客さんを島のオススメスポットへ案内していたんです。これが僕のガイド業の原点ですね。その後住み込みを卒業し、本格的にガイドを始めると、”この仕事は、身体を動かしながら自分で勉強していく仕事なんだ”と分かってきました。それも僕の肌に合ったんです」

島に住み、個性の強い知人たちと出会い、これまでの考え方を覆される様々な出来事を体験したという。
「ガイド業の他にも、イベントや、個人的なことだと結婚や子育て、ときには自分のキャパシティを超えるような事が起こったり。でもそれらを経験したことで、『自分の人生は、自分で楽しくするんだ』と思えるようになりました。そして、屋久島が抱える課題も見えてきたことで、次第に「持続可能なツアーカンパニーにしたい」との思いが増してきました」

人と自然が織りなす暮らしを、全体性を持って伝えて行きたい

今村さんは、自然ガイド業と並行し、高平集落の海沿いに建つ”モスオーシャンハウス”の管理人として、人と自然が織りなす暮らしを感じてもらえるような宿泊体験を提供している。

島の食材を使い自然の味を大切にした季節感溢れるお料理、そして友人や4人のスタッフらと共に、様々なイベントなどを開催している。

「屋久島の魅力は、山や自然だけでなく、もっと全体性を持って伝えていくべきなんじゃないか?と思うんです。実は、昔、住み込みしていた宿の女将さんに言われたことを今でも忘れないんです。『屋久島の山は、入る前にも、出てきたときも”ありがとうございます”って言うんだよ』と教えられました。自然と生きる人々の暮らしなども、屋久島の大きな価値のひとつなんじゃないでしょうか」

“心に自然を宿そうよ”

いま、今村さんは一つのプロジェクトを手がけている。それは”水の循環”と”里の風景づくり”などをテーマにした参加型プログラム。企業研修やファミリー層、教育旅行などを対象とした、長期滞在で行う新しい観光スタイルの提案だ。

内容は、『1000年の森を育んだ水のめぐりと繋がりを、里から海へと気持ち良く手渡せるように、目には見えない土の中の空気や水の流れを整え、自然本来の力を引き出す「大地の再生」や「土中環境」を整える手法を用いて、草を刈ったり、川を掃除したり、畑作業に参加したりして、お客さんと一緒に島の風景を作り上げていく』というもの。

「お客さんは、ここで営まれる暮らしに触れることで、自然から沢山の気付きを得て帰られます。『あの川どうなった?』など、お客さんの方から気にかけてくれるんですよ」

モスオーシャンハウスは、広い敷地の中に海を一望できる開放的な母屋と、森の中に佇むコテージがある。ただそこを歩き、息を吸うだけで身体が解放されていくようだ。

「雨が海に降り落ちて水蒸気となって山へ昇り、また雨となって落ちる。この島ほど、自然の循環を目の当たりにできるところはないですよ」

今村さんの案内のもと、森を抜けて母屋に入る。すると“心に自然を宿そうよ”、黒板に優しい文字で書いてある。

ふと窓から柔らかい海風が舞い込んできた。地球上の壮大なテーマへの取り組みは、この小さな島から始まったばかりだ。

  • (name)今村祐樹さん
  • (住所)鹿児島県熊毛郡屋久島町麦生311−91
  • (TEL)099473650
  • (URL)https://www.moss6.com/

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