小原比呂志さん/屋久島野外活動総合センター(YNAC)ガイド

“楽しく学びながら自然を守る”エコツアー。屋久島野外活動総合センター(YNAC)の自然ガイド

「僕は屋久島に飽きたことがないんです。他所に行ってもこんなに面白い場所はありませんよ」

1993年、屋久島が世界自然遺産条約に登録される数ヶ月前のこと。多様な視点から島の自然を体験し、学びながら環境保全を目指す”エコツーリズム”の実践を掲げるガイド会社が設立された。

『屋久島野外活動総合センター(YNAC)』

立ち上げメンバーの1人である自然ガイドの小原比呂志さんは、北海道十勝出身だ。1987年に屋久島に移住。今でこそエコツーリズムは、持続可能な社会を実現するための観光的な取り組みとして周知されているが、YNACはその草分け的な存在だ。

「僕が生まれ育った北海道は、日本の他の地域とはが違っていて、ヒグマはいますがカマキリやカブトムシがいなかったので、小さい頃から「内地」への憧れがものすごくありましたね」

そんな理由もあり、大学は故郷から離れた鹿児島大学水産学部へ。卒業後、東京で会社勤めをした後、屋久島に移住する前までは、さらに南の奄美大島で水産関連の仕事に携わっていた。

地元人もよそ者も活発に島の未来を語る場所。そして、自然調査の基礎を築いた研究者との貴重な時間。

その後、小学校教諭の奥様と屋久島に移住した。YNACが立ち上がるまでの数年間も含め、様々な人達との交流が現在の小原さんの活動に大きな影響を与えているという。

「僕が来た頃の屋久島には、島について活発に議論を交わす場がありました。例えば、
雑誌”生命の島”の日吉(眞夫)さんや、兵頭(昌明)さん、長井(三郎)さんなど、屋久島産業文化研究所のメンバーたちや、ときには詩人の山尾三省さんなども‥。他にも様々な方達も含め、あのときの熱量が今の屋久島に繋がっていると感じます。いろんな人がみんなで明日の屋久島のために熱く語り合っていました」

そして、とても貴重な体験だったと語るのは、屋久島をフィールドとした研究チームに同行し、異なる分野の専門家たちのディスカッションに加えてもらったり、若き研究者たちと触れ合い、現場で教えを受け、考えることができたことだ。

「本当に貴重な時間でした。今のようにインターネットの無い時代ですからね。疑問があれば直接専門家に聞くことができたんです。そして、若い研究者たちの多くは、ここで得たものを”地域に還元したい”という強い意思を持っていました」

この時期に学んだものが、今のYNACの土台になっているという。

YNAC前夜。
「これだけ多様な自然ならなんでもできる」

YNACは、小原さんのほかに松本毅氏さんと市川聡氏さんの3人で設立したガイド会社である。

設立のきっかけになったエピソードがある。27年前に開催された魚の種類の豊富さを競う全国コンテスト『フォト ドュ ポアソン』に、現在のYNACメンバーが中心となった屋久島海洋生物研究会が参加して、いきなり優勝したことだ。

「南西諸島などいろいろな地域がエントリーしていましたが、まさかの屋久島が180種出して断トツで1位。さらに2回目には240種類、そして3回目には280種類と記録を更新し、屋久島は3年連続の優勝となりました。それまで僕は、海はもちろんいいなと思いながらも、山や森や谷など陸域の自然にフォーカスしていたのですが、これで”海も日本一”と分かったんです。屋久島の自然は、縄文杉があるとか百名山だとかいうタイトルではなく、その多様性の高さが凄いのだと確信しました」

こうして、代表の松本毅氏さんの「これだけ多様な自然ならなんでもできる」という言葉とともに、YNACを立ち上げることになった。

「最近は屋久島の歴史が面白い」と語る小原さん。その好奇心は歳を重ねても増すばかりだ。

「やはり、満足度が高いのは「掴めた旅」だと思うんです。たとえば屋久島を訪れた方が、ヤクスギランドの巨大な切株を見た後で、自分の町の由緒あるお寺に屋久杉が使われていることを知ったら、そこで屋久島と自分とががっちり結びつきますよね。そこで見つけたものが自分の知識や経験と結びつく。そうだったのか!と腑に落ちる。屋久島でそんな経験をして欲しいんです。自然でも文化でも、理解が広がれば深く納得できるし、わかったものは守りたいと思うことができる。それがエコツーリズムの芯です。27年前は少人数の小さな活動でしたが、今は地場産業としての広がりができてきた。エコツーリズムという観光の手法は、”破壊する側”ではなく”守る側”に立つことができるんです」

小原さんが屋久島に住んでから、33年の月日が過ぎようとしている。

「いまは、かつての森林伐採がひと段落し木々が成長して、森が復活してくるのを落ち着いて見ることができるようになりました。50年経った照葉樹林は、かなりいい森なんですよ」

この島の観光のあるべき姿は、小原さん達の眼差しの先にあるのだろう。

(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)

  • name 屋久島野外活動総合センター(YNAC)
  • 住所 鹿児島県熊毛郡屋久島町安房2353-302
  • TEL 0120-993-272
  • URL https://www.ynac.com/map.html

関連記事一覧