浦田功さん/屋久島大屋根の会

「屋久島の自然がつくる文化を、世界に広げて行きたい」森林は屋久島の財産。世界へ向けて発信を!

屋久島空港から宮之浦に向かい5分ほど車を走らせ椨川集落を過ぎると、真っ直ぐ続く県道沿いに、地杉で組まれた建物が見えてきた。

“屋久島大屋根の会”の浦田功さんは、昭和58年に岩手県久慈市から屋久島へ移住した。水力発電所のダム建設の仕事のため初めて島を訪れたというが、翌年には屋久島出身の奥様と結婚し、奥様の家業を継ぐことに。

「初めて来た屋久島は、とにかく雨が多くて”屋久島ってこんなに雨が降るんだなぁ”と驚いたのを覚えています。その後、妻の実家の建設会社に勤め、義父が亡くなったことをきっかけに社長に就きました。当時は島に45社ほどの土木会社があって、島中で公共事業が盛んだったんですよ」

“社長、元気出せよ”

その後、バブル経済が衰退し、島の建設業界もその煽りを受け、次第に仕事が無くなっていった。
「国の予算を取り合い、最終的には島外の大手企業が利益を吸い上げて行くような島の現状にずっと違和感を覚えていました。当時は、会社を終わらせたくても大きな費用がかかるため、簡単には終わらせられない辛い状況が続いていたんです。そこに社員が亡くなったことが重なって落ち込んでいた自分に、”社長、元気出せよ”と声をかけてくれた人がいました。その言葉を聞いたとき、『ああ、これからは屋久島のためになることをしよう』と、思うようになりました」

島に大きい屋根をかけて

もともと建築士だった浦田さんは、その後”屋久島大屋根の会”を設立。島の大工や製材所など仲間達に声をかけ、地杉を利用し島民が潤うようなシステムを提案した。

「仲間みんなで手を繋いで、もう一度屋久島の価値を見直すことができるような共同体にしたいとの思いがありました。”1人じゃできなくても、みんなで島に大きい屋根をかけたら、雨漏りもせんが!”という気持ちで”大屋根の会”という名前にしました。それからは勉強の日々ですよ。なかでも印象深いのは、霞ヶ関で林野庁の主催した地域材使用のセミナーに参加したことです」

全国から集まった林業関係者や木材産業に関わる”その道のプロ”と言われる参加者たちとの人脈ができ、意見交換をすることが増えるにつれ、「屋久島は特別な場所なんだ」と感じるようになったという。

「屋久島の文化は、”森林文化”。この島の森は、何にも変えがたい財産です。だから自然を保全しながら経済を回していくということを真剣に考えなければなりません。なんせ屋久島の自然は、他と比べてケタ外れな資源なんですから」

公共建築は、地域経済を生み続けなければならない

浦田さんはその後、”社団法人地域資源活用センター”を立ち上げ、島内の様々な業種が集い交流を通して、それぞれの視点から屋久島の地域資源を活用できるよう、それまでの活動の裾野を広げた。

それは、屋久島町役場新庁舎の建設において、島の地杉を使用し島内の業者が携わったという経緯に繋がっている。1億円を超える公共事業で、地元の業者のみ参入するということは、極めて珍しいことだったという。

「公共建築は、地域の経済を生み続けなくてはならない。このことで地元の大工さんの仕事が無くなるのはよくないですからね。そのためにも、これからどのように動くかということがとても大事になっていきます。町や島内の企業など官民一体で考えていくべき課題ですね」

民間ホームセンターとの取り組み。経済を回しながら、島の財産を世界へ

そして最近もうひとつ、浦田さんは新しい取り組みを始めた。それは、島のホームセンターSOMES(SOMES倶楽部/2月オープン予定)を窓口に、地杉を商品化し、世界へ向けて発信するというもの。

「島の資源を世界中の人の元へ届けることは、同時に屋久島の森林文化を世界中の人達に知ってもらえるチャンスです。そこで経済を循環させることができれば、”自然保全”や”教育”など、島に還元することができるんです。これは、私の最後の仕事になるでしょうね。それぐらいの覚悟です」

もうすぐオープンするSOMES倶楽部には、もちろん屋久島の地杉がふんだんに使われている。

「ほら見て。これは全て自然が創り出した模様。素晴らしいでしょう。屋久島の木は、時間が経つといろんな顔になっていくんですよ。それは屋久島の自然条件が生み出したもの。地杉を通して島の自然の素晴らしさを届けたいですね」

色や模様など様々な表情を見せる地杉が、交互に貼り付けられた壁。

浦田さんは忙しく働く地元の大工さん達を労いながら、「御縁があって屋久島に来たんだから、島のために頑張りたいですね。私は、令和の”泊如竹※”になりたいんですよ」、そう言って笑った。世界のどこかに屋久島の財産が届けられる日は近い。

※泊如竹―安房集落出身の儒教学者。島民の生活向上のため、森林資源として屋久杉の活用を献策した。
(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)

  • name 屋久島大屋根の会
  • 住所 〒891-4206 鹿児島県熊毛郡屋久島町楠川1471-5
  • TEL 0997-42-1300
  • URL  http://yakushimaooyane.com/

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