屋久島の田植え風景

沖縄に続き九州南部も例年より3週間近く早く梅雨入りしました。

新緑真っ盛りの生命が爆発する季節は田んぼの始まりの季節でもあります。あまり平地のない地形的な問題や台風などの気象条件もあり、屋久島では大規模な田園風景を見ることはあまりありません。江戸時代には年貢として米の代わりに屋久杉を収めていたことからも米どころとは程遠い環境です。しかしながら小規模ではありますが県道を少し外れると棚田が広がる風景に出会うことができます。

屋久島の稲作は大きく分けて2パターンあります。1つは3月~4月に田植えを行い、秋の台風シーズン前の7~8月に収穫を行う早いやり方。もう1つは5~6月に田植えを行い、台風が一番多く発生する9月頃を稲穂がつく前にやり過ごし10~11月に収穫するやり方です。と言っても田植えや収穫の時期は作り手によって様々なので一概に分けることはできませんが基本的には早く植えて早く収穫する方がメインで、早ければ7月末には新米を楽しむことができます。

屋久島の面白いところは農家さんだけではなく、個人や家族単位で米作りに関わる人が多いというところです。今回は無農薬栽培の稲作風景をお伝えします。

3月末頃、昨秋に蒔いたレンゲの花が満開を迎えます。レンゲはマメ科の植物で、根で根粒菌という菌類と共生関係を結び空気中の窒素を取り込み栄養とします。窒素は植物にとって葉や茎の成長に欠かせない成分で、田に水を入れる前にレンゲを土にすきこむことで天然の肥料となってくれます。昔は全国の水田で春にはレンゲ畑の風景が見られましたが、レンゲの開花を待っていると田植えの時期が遅くなることや、レンゲにつく害虫の問題や化成肥料の普及により、レンゲ畑はずっと少なくなってしまいました。

レンゲは自然の肥料としての役割はもちろんのこと一面に広がるレンゲ畑は絶好のピクニック広場、こどもたちの遊び場になり田植え前の楽しみの1つです。

レンゲをすきこんだ後は水を入れ、代掻きをして田を整えたあといよいよ田植えの始まりです。田植えは稲作の中でも稲刈りに並んで盛り上がるイベントで、我が家の田んぼは手植えなのでたくさんの仲間たちに手伝ってもらいながら少しずつ植えていきます。昔ながらの人々が集い手伝う『結・ゆい』の作業のはじまりです。

機械の方が何倍も効率はいいのですが、機械よりも手植えの方が活着率が高く確実に根付き、植える本数などの微調整も可能です。何より土に触れ手で植えるという作業が気持ちよく続けていると瞑想に近い状態になることも。

老若男女問わず泥だらけになり楽しめるのが田植えのいいところ。『田』に『力』と書いて『男』、田を耕したり水源の管理をしたり力仕事は文字通り男の仕事ですが、田植えはガサツな男より丁寧な女性陣の方が向いているような気がします。お母さんたちの田植えをする風景はすごく絵になります。

正直なところ経済的なことだけを考えると手作業で小規模米を作るよりも米を買った方が効率的です。だけれども自分たちの食べる米を作ることはお金以上の価値があるように思います。特に屋久島は自然との距離が近く、米作りを通して命や水の循環をダイレクトに感じることができます。

雨の島屋久島。黒潮がもたらす湿った空気は急こう配の地形を上昇することで雲となり、雨となり山々を潤します。森を通り土中のミネラルなどを抽出した水は水脈となり流れます。その水脈を引き込んだ田んぼは様々な生き物たちの多様性を生み出します。特に水入れから田植えの時期はたくさんの生き物たちが集まります。特徴的なのがサギで、代掻きをすると土の中のオケラなどの虫たちが驚いて出てくるのでそれを狙って集まってきます。水が張られると田んぼは水生昆虫やカエルなどのすみかとなり、それらを狙って肉食の虫やヘビなどが集まってきます。

もともとは田んぼは人間が森林や原野を切り開いたものですが、そこで稲作という行為を行うことでもともとあったものとはまた違った多様性が生まれます。そしてそこで育った米たちは人々の腹を満たし生きる糧となります。米作りとは自分と生態系との繋がりを認識するツールとも言えそうです。

人々の笑顔と自然が共存する米作りをこれからもお伝えできたらと思います!

 

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