幻の花を探して~シマコウヤボウキ~

こんにちは!Yakushima Film の松田です。
「シマコウヤボウキ」という植物を知っていますか?
恐らくよほど植物に詳しい人しか(たぶん詳しい人でも)知らない植物だと思います。

1980年代の調査で、千尋の滝の岸壁で発見され新種登録された「シマコウヤボウキ」(Pertya yakushimensis)は、屋久島南部の岸壁という限られた生育条件のため、その生態などは未知のままで忘れられた植物となっていました。

『野生状況下で開花を見た人間はいないはず』

屋久島の植物なのに、誰も見たことがないとはどういうこと!?

数か月前に聞いたYakushima Film のメンバーの小西からの言葉は、僕の冒険心に火をつけ、メンバー数名との植物調査を計画しました。

しかし、花の情報は、ほぼ皆無。
調査で持ち帰り小石川植物園で30年近く栽培している株は9月中旬頃に花を咲かせるが数は少ない。それくらいの情報しかありませんでした。

屋久島の場合、シカの食圧や他の木々との光の競合により深く削られた谷の岸壁を住処にする植物たちがいます。2021年に新種登録された「ヤクシマルリアジサイ」も目立つ花ですが、分布が険しい谷の中なので今日まで調査が行われていない花でした。

今回の「シマコウヤボウキ」は、低木で花も地味なのでまさに忘れ去られた植物です。

車から歩くこと30分、場所は200mの岸壁の上。

30年前の調査の情報とクライミングのときの下見の情報からGPSと睨めっこしてロープをたらし、懸垂下降で下るとドンピシャで目的のシマコウヤボウキと対面することができました。

冒険は未知との遭遇です。
未踏峰や未開の地を求めて登山家や冒険家は歩みを進めます。しかし自然科学も冒険です。研究者は新種や人類初を生み出すことを求めて歩みを進めます。

断崖絶壁を降りて植物を探すのは、そんなクライマーと生物屋の冒険が合わさったアカデミックでエクスペディションな体験。
可憐な白い花を見つけたとき、『はじめて、野生(本来の場所)で咲いている花を見たかもしれない』という興奮が沸き起こり叫んでいました。

岸壁の小さな体積部分に個体数はありましたが、花を咲かせているのは目の前の個体だけ。運も味方して最高の経験になりました。

深い谷の奥深くに人目につかず生きている生き物がいる。

今回の「シマコウヤボウキ」は里から近いので場所がわかれば(ロープの技術は必要)割と観察しやすいですが、30年のときを越えてやっと写真が人目に出たという植物です。
言い換えれば生活圏の中にも未知や冒険が隠れている。屋久島の懐の深さを感じられずにはいれません。

印象的だったのは、アズチグモが白い花に擬態して狩りをしていたことです。
人間が必死で探しているのだけど、当たり前に彼らは何千年も前からここで生きていて、その営みを垣間見ることができ僕らはよそ者ということが認識できました。

そして花の情報をくれて一緒に調査に行った植物好きのメンバーの愛と情熱により自分の知らない植物に出会え、僕にとって特別な花がまた1つできました。

気になっている植物はまだまだあるのでこれからも僕たちの冒険は続くのでしょう。

こちらの動画で、私たちと一緒に臨場感を体験してください!

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