カヤックから見る安房川

屋久島の東に位置する安房集落は、鹿児島と屋久島を結ぶ高速船が発着する港町である。その港へ注ぐ川が安房川だ。屋久島で最も長い川で、河口から少し上流へ向かえば、照葉樹の覆う深いV字谷が続いている。縄文杉へ向かうトロッコ道の脇を流れる川としても知られている。

夏のシーズンともなれば、カヤックやSUPなどで賑わっている。安房川のエメラルドグリーンの水面を漕いだら、誰もが虜になること間違いなしだ。

東京から屋久島へ移住する決め手のひとつが、この川でいつでもカヤックができることだった。東京に住んでいた頃は、旅先でカヤックをするか、車や電車で2時間は移動しないと綺麗な川を漕ぐことは難しかった。今や玄関を出て、歩いて10分で安房川。何とも贅沢な環境である。

安房川は、普段は流れも穏やかなため、はじめてカヤックする方にもおすすめだ。ひんやりとした夏の早朝。まだ陽が昇る前にカヤックを漕ぎ出す。誰もいない安房川で、プカプカと浮きながら、太陽を待つ瞬間は至福の時だ。

隣の種子島から陽が昇ることもあれば、それは季節とともに変化していく。朝日で染められていく山々を見ながら、上流へ漕ぎ出す。
下流域は、淡水と海水が混じる汽水域となっていて、稀に川を泳ぐウミガメに遭遇することがある。大潮の時は、干満差が2メートルに達することもあり、行きになかったはずの砂洲が、帰りに突如現れたりするから驚きだ。

2019年5月18日、屋久島で豪雨災害が起きた。安房港には、川から大量の砂が流れ込み、しばらく高速船の発着ができなかった。自然の威力を目の当たりにした出来事だった。

自然は、時に僕らに安らぎの場所を与えてくれるが、時にその逆もある。屋久島の自然は本当に厳しい。満潮時には川の水に浸かりながらも岸壁にしがみつく植物たちがその事を教えてくれる。

この数年、神社へお詣りすることが増えた。自然への畏怖の念を覚えずにはいられないからかもしれない。自然への畏怖の念。そして、自然を敬い、残してくれた島の先達の方々への感謝。そんな想いを心の片隅に置き、明日も安房川へ漕ぎ出す。

末筆になりますが、令和2年7月豪雨で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げますとともに一日も早い復興をお祈り申し上げます。

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