牧瀬一郎さん/鹿肉精肉販売所ヤクニク屋
森のめぐみ“屋久鹿”をテーブルに!
「屋久鹿は、森の豊富な植物を食べているから、とにかく美味い!」
そう話すのは、宮之浦集落にある鹿肉専門販売店「ヤクニク屋」代表の牧瀬一郎さん。
自然豊かな屋久島の森で育った屋久鹿が、島の食資源として生まれ変わり、島内の飲食店や宿泊施設などで提供されている。屋久鹿は、離島など隔絶された地域によく見られる亜種であり本土の鹿に比べ個体が小さいが、高低差の激しい山岳を駆け巡っているため身が引き締まり、脂身の少ないルビー色の赤身肉には森の旨味が詰まっている。
実はこれまで屋久鹿は、“農作物を食い荒らす獣害問題”と、“増えすぎると島の自然のバランスが崩れてしまう”との理由から、毎年5,000頭近くが捕獲され森の中に埋められてれていた。猟友会の猟師でもある牧瀬さんは、その現状を見て、
「鹿も屋久島の自然の一部。精肉としても美味しい鹿をなんとか活用できないか」
と、2015年に解体処理施設が併設された鹿肉の精肉所“ヤクニク屋”をオープンさせた。
牧瀬さんの実家は、もともと肉屋さんを営んでいた。お祖母さんからは、「昔は、鹿肉を葉っぱで肉を包み、お金持ちの家にしか売りに行かなかった。値段は豚肉の3倍だった」と、聞いて育ったという。鹿を獲り、精肉にするまでは、とにかくスピードが大事。鹿を獲ったら速やかに山から降ろし→温度管理が徹底された場所で一頭1時間以内に捌く→皮や内蔵を取り除いた鹿を一頭丸ごと冷蔵庫に吊し水分や血抜きを3〜5日間かけて行う→部位ごとに切り分ける。その間、衛生面や病気がないかなどの厳しいチェックを数回行い、金属探知機にもかけるという。
しかし、ここまで手間をかけても精肉だけではコストが高くなってしまい、課題も多い。
「鹿を地域資源として生まれ変わらせるのは、想像以上に大変でした。自分で狩猟をし、精肉にして販売するまでを実現したことで、かつて祖母から聞かされていたことが、理解できました。」と話す。
ヤクニク屋では、ペットジャーキーやインスタントラーメン、皮、ツノなど、精肉以外の部位でも商品開発を行い、余すところなく有効利用している。
「鹿の命を、島からもらった“森のめぐみ”として大切にしたいという思いです。僕はこれも島の文化の一つだと思うんです」
森のバランスを保つため猟師が森へ入るように、島のバランスを保とうと牧瀬さんは日々奔走している。
ヤクニク屋
- 住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦
- TEL:0997-42-1129
- yakunikuya.com