黒飛淳さん/屋久島歴史民俗資料館

屋久島の先人たちの営みを感じてほしい。

屋久島・口永良部島の昔の暮らしを土器や民具などの展示品で伝える歴史民俗資料館。宮之浦川沿いに建つ資料館の玄関をくぐると、2匹の屋久鹿の剥製がお出迎えしてくれる。

黒飛 淳さん/屋久島歴史民俗資料館

「ここは、屋久島の文化や民俗を伝える、いわゆる”屋久島の足下を見つめ直す場所”です。宮之浦川沿いを散歩するついでにふらっと立ち寄って島の文化を語り合うようなコミュニティの場になってほしい」

そう語るのは、資料館に勤務して7年目という黒飛淳(くろとび あつし)さん。
業務委託員として、施設の維持や接客、イベント企画を行っている。歴史民俗資料館は、縄文時代から昭和までの、島内での出土品や民家に眠っていた民具などを展示し、島の文化や民俗を分かりやすく紹介している場所。

「出土された土器や、寄贈された民具を調べて行くと、屋久島の厳しい自然環境が創り出した、集落ごとの独自の文化が近年まで継承されていたことが伺えます。つまり、深い谷や川で集落が断絶されていたため、長い間、集落同士の交流が難しかった。でも、近代化が進むにつれ集落同士の行き来がさかんになってからは、昔のような濃い集落性は少しずつなくなってきている気がします」

黒飛 淳さん/屋久島歴史民俗資料館

京都出身の黒飛さんは、2000年に家族で移住。以来、画家として島の自然を描いたり、絵画教室の講師をするなど島の暮らしに溶け込み、同じく画家の奥様と共に、5人の子供を育てた。若い頃から骨董などの古いものが好きだったというが、旧屋久町時代に平内民具倉庫(平内集落)で民具の台帳作りを任されたことから、ますます民具の魅力にはまっていったという。

「民具に触れるうちに、どんどん愛おしく感じてきました。するとだんだん、このままお蔵入りするのは可哀想だなと思い始めたんです。そこで、地元の子供達と一緒に実際に民具を使用し、お米作り体験を行い、1人でも多くの人に民具の魅力を知ってもらうことにしました」

現在は資料館でも、島内の小学校向けに”民具を使って昔の暮らしを体験する”という取り組みを行い、利便性の中で育つ子供達に、先人達の知恵が詰まった民具の面白さを伝えている。

歴史民俗資料館内にたたずむ網代小屋で、屋久島の文化を学ぶイベントを開催

資料館中庭には、縄文時代から続く網代編みで作られた”網代小屋”と呼ばれる小さな古民家が佇んでいる。かつて口永良部島で取り壊されそうになっていたところを、2002年に移築。黒飛さんは現在、囲炉裏のある網代小屋で島の文化を語り継ぐトークイベントを次々に展開している。写真やスライドを使用しながら、屋久島の古老が語る昔の小杉谷集落の暮らしや、民話、屋久島の詩人”故山尾三省氏”の詩の朗読などを、みんなで囲炉裏を囲みながら島の文化を語り合うのだという。

黒飛 淳さん/屋久島歴史民俗資料館

「昔の島の暮らしには、屋久島らしい個性が色濃く映し出されています。それらを知ることで、屋久島の自然によって営まれた独自の文化を少しでも残せるかもしれません」

かつて、この島で生きていた先人たちの小さな証に、ひとつずつ丁寧に耳を傾ける黒飛さんの情熱が、はるか昔の屋久島へとタイムスリップさせてくれるようだ。

黒飛 淳さん/屋久島歴史民俗資料館

イベントのご案内

11月23日山尾三省朗読会開催(屋久島歴史民俗資料館 網代小屋にて)

(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)

屋久島歴史民俗資料館

  • 鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦1593
  • 0997-42-1900

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