内山智恵さん/café kiina

働き者の「手」が育む、海辺の一軒家カフェ

どこか遠い国の言葉のような「kiina(キイナ)」。
昭和の模様ガラスの窓からは、柔らかな光が射し込み、畳敷きの小上がりもあって、記憶の中の風景に紛れ込んだような、懐かしい雰囲気に包まれている。海辺に流れ着く珊瑚や流木、ウニの殻、古材のテーブルに多肉植物の寄せ植え……。

智恵さんがこの地に店を構えて5年。ときどきプロの大工さんの手も借りながら、インパクトドライバー片手に、古い家を少しずつ手直ししてきた。

智恵さんはずっと「作る」人だった。
大工さんに憧れた幼少期を経て、洋裁を学び、「サンプルメーカー」の道へ。憧れの「東京コレクション」に参加したことに満足して、屋久島に移住、子育ての合間にできる製作物として、ピアスやストラップを作りはじめた。
アクセサリー作家としてレストランや土産物店に作品を卸していた智恵さんが、この古い一軒家に出会ったことが、「kiina」の始まり。当初は、アクサセリーが主役の予定だったのに、手作りのキッシュ(450円)やシフォンケーキ(260円)も評判を呼び、あれよあれよという間に、島の人気カフェになった。

目下、目指しているのが、屋久島の伝統食材「すり身」の製造販売。
島の北東、志戸子集落の、5、6月はすり身のシーズン。各家庭トロ箱でトビウオを買い付け、すり身にして1年分を貯蔵したり、各地の親戚に送ったりする。ニラを一緒に練り込むのが、志戸子集落の特徴で、その断面は鮮やかな緑色。智恵さんも「kiina」をオープンさせるずっと前から、毎年すり身を作り続けてきた。「kiina」では、このすり身を揚げた郷土料理「つきあげ」を挟んだホットサンド(900円)を、オープン当初からの定番メニューとして提供している。

すり身は、来年の商品化が目標。働き者の「手」は、まだまだ新しい挑戦を続けていく。
(取材:一湊珈琲編集室 高田みかこ)

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