熊井勇介さん/屋久島うなぎ研究所
屋久島の北、一湊川のほど近くに、2018年、「屋久島うなぎ研究所」が設けられた。
「研究所」と言っても、寝泊まりしながら調査するための古い民家そのまま。現在、ひとりでこの家を守る熊井勇介さんは、立ち上げの年からこの場所に関わってきた。
幼少の頃から、釣りに明け暮れる毎日を過ごしてきたという熊井さん。東京大学では、水産資源学研究室でウナギ属魚類の研究を始めた。「どうせ研究をするなら研究室にこもるのではなく、フィールドに出て研究がしたい」ということもあり、屋久島に新設される研究所行きを志願したという。
「世界自然遺産ということもあり、人を寄せ付けない力強い自然が広がる島をイメージしていた」という熊井さん。豊かな屋久島の自然に触れられるという期待の一方で、きちんと暮らしていけるかという不安もあったという。
「島にしばらく滞在して思ったことは、かなり暮らしやすい島だということです。コンビニこそありませんが、スーパーマーケットもあるし、ドラッグストアもあります。住んでいる方も優しい方が多く、困っている時はいつも助けてくださいます。そのような暮らしやすさの一方で、ひとたび山や川、海に入れば美しく雄大な自然が広がっています」とその魅力を語る。
また、もう一つ驚いたこととして、屋久島の川が予想以上にウナギ天国だったということだった。来島前はあまり屋久島にウナギがいるイメージを持っていなかったのだが、あちこちに、それも高密度でウナギが生息していることに驚いた。屋久島の河川は人間活動の影響が小さく、本来あるべき自然の川はこうなのかもしれないと感じたという。
熊井さんのフィールドは、主に屋久島と種子島の河川だ。
この2島には、蒲焼きで馴染み深いニホンウナギと最大で全長2メートルにまで成長するオオウナギの2種のウナギが共存しているが、屋久島の河川にはオオウナギが、種子島の河川にはニホンウナギが多く生息している。この原因を解明することで、オオウナギとニホンウナギが、それぞれどのような環境を好んで利用するかの解明に取り組んでいる。
熊井さんには思い出深い出来事がある。調査を始めたばかりの頃、屋久島の河川でニホンウナギを全く見つけられなかったのだが、地元の人からニホンウナギが多く生息している場所を教えてもらったことで、オオウナギとニホンウナギが、同じ河川内で異なる生息地を利用していること、「棲み分け」をしていることが明らかとなった。「なぜ2種は棲み分けをするのか」という疑問が現在行なっている研究の基盤となった。調査地域に長期滞在して、地域の人と交流することの重要性を痛感する出来事だった。
昨年は、東京大学大学院農学生命科学研究科の金子豊二名誉教授と黒木真理准教授らとともに、屋久島の小中学校で出前授業を実施、地域貢献へも取り組んでいる。
屋久島での研究はひとまず2024年7月までの予定。
これ以降は博士課程卒業のため東京で論文執筆に取り組む。しかし、「ウナギ天国」屋久島の河川でのウナギの研究は何らかの形で継続したいと考えている。