奥岳の秋のサイン

こんにちは。YakushimaFilmのシュンゾウです。

雲が集結して巨大化していく夏の入道雲はパワフルでグッときますが、集まることなく一つ一つがユラユラと薄く広がっていく落ち着きを放った秋の奥岳の雲模様はまた格別です。木々たちが休眠へ向けて活動を停止し始めているかすかな気配を、秋独特の澄みきった空気感の中に感じます。この広大に散らばった個性的な雲たちが夕日によって染まりだすと、もうそれはそれは。。。 未来の人間社会を見ているようです。

こんな景色を無料で観賞させてもらっていいものなのでしょうか。東京生まれの元都会人としては、そう思ってしまいます。屋久島に住みついてから、たくさんの感動をこれまでいただいてきましたが、心の奥深くに喜びをもたらしてくれる存在はいつもお金の支払いを求めてくるようなことはありません。

美味しすぎる沢の水
可愛すぎる猿の赤ちゃん
心が躍る色とりどりの魚たち
体内が浄化されていくかのような山の空気

すべて無償で存在してくれています。屋久島は縄文杉以外何もないと言われてしまうことがありますが、「何もないけどすべてがある。」 そんな風に言われることもあり、そんな時は何とも嬉しい気持ちになります。

前回は高山植物の花々を通して秋をお伝えしましたが、今回はまた別の視点で奥岳の秋をお伝えしたいと思います。奥岳の紅葉の全盛はもう少し後になりますが、ゆっくりと秋が深まっているなあと感じます。

先日、奥岳の乙な3つの秋に出会いました。

1つめは、青々と繁茂していた草たちが枯れ始め、まだら模様になった花之江河です。一年でもっとも花之江河がカラフルになる瞬間です。あっという間に茶色一色になってしまうので、秋序盤に出会える束の間の風景です。

紅葉してゆく花之江河

2つめは、オオカメノキの紅葉です。奥岳でまず1番に紅葉して落葉してゆく木です。
去り際があっという間で個体数が比較的少ないので見逃す年もあるのですが、今年は出会えました。もう屋久島で13回目の秋を迎えますが、毎年繰り返される木たちの冬支度の光景は、地味でとても小さな変化にもかかわらず、年を追うごとに心のより深いところに幸福感がポタポタと沈殿していきます。

「今年の紅葉のトップバッターはやっぱり君だねえ。何でそんなにいつも早く色づいて散ってゆくの?」

そんな一方通行な会話をしてるのがたまらなく好きだったりします。

オオカメノキの紅葉

3つめはシャクナゲとアセビの蕾です。春一番に鈴なりに咲かせ奥岳に春を告げるアセビは3月に開花がスタートします。奥岳でもっともゴージャスな花を咲かせて登山者をルンルンにさせてくれるシャクナゲは5月下旬に開花を始めます。奥岳に生きるこの2つの木は秋に花芽を形成し冬を耐え凌ぎます。

南の島ですが1月にもなると山岳地帯は氷点下になり、雪も1m以上降り積もります。その時、彼らは雪に埋まってしまいます。人間だったら間違いなく凍死してしまうでしょう。だから、彼らが夏の間に創りあげた蕾に遭遇するたびにいつも思ってしまうのです。

なんで辛い冬を終えて暖かくなってから蕾を形成しないのだろう。

鈴なりにできあがるアセビの花芽

長年、そう思い続けてきましたが、

毎年見事な花を咲かせる彼らに出会うたびに
雪山を裸で闊歩する鹿に出会うたびに
辛い山道を歩ききった先に待っていた感動的な夕焼けに出会うたびに

生命の危機を感じる辛さこそが、生命が力強く生きていくために何よりも必要なことなのだと、山が無言で伝えてくれているように最近よく思います。

屋久島町の花に選定されているシャクナゲの花芽

まだまだ屋久島の山にはたくさんの秋があります。
小さな秋を見つけに空気の澄んだ秋の山に是非入ってみてください。

では、またっ!

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