鹿島裕司さん、日高ゆかりさん

つかむ、みがく、香りをかぐ、小さく柔らかい手で木に触れる。子供たちの”心”を育む、木育インストラクター。

木育インストラクターとして活動する鹿島裕司さんと日高ゆかりさん。兄妹である2人は、島の東側に位置する安房集落で生まれ育った。様々な視点から木の素晴らしさを伝える取り組みを行っている。

木育とは、鹿児島県が推進している木育推進事業のひとつ。鹿島兄妹は、そのインストラクターとして、豊かな森林を誇る屋久島だからこそできる取り組みを、地元の林業関係者や材木・木工業者などと協力し行っている。

そのなかでも特に、幼児教育のなかに木育を取り入れる活動は、鹿島兄妹が最も力を入れているのだという。幼い頃から積極的に木に触れると、子供たちのみずみずしい五感が刺激され、豊かな感性が育まれる。積み木やおもちゃなどに加工された地元の木で遊びながら、その生態から活用にいたるまでの、木や森との関わりや文化を知ることは、SDGsなどの持続可能な環境保全にも繋がっていくからだ。

子供たちの成長、木と共にあってほしい。

鹿児島県木育インストラクター第3期生の兄の裕司さんは、かつて”木こり”として、森林伐採の仕事をしていたが、怪我をきっかけに退職。その後も、木に携わる仕事を続けたいと、屋久島産の材木を使った雑貨工房「ウッドショップ木心里(きこり)」をオープンさせた。店内には、木工職人として裕司さんが手掛けた様々な作品が並ぶ。木育事業では、グッズの製作だけでなく、企画から裏方までと全体のディレクター的な役割も担っている。

「木が生まれて朽ち果てるまでの全てのサイクルを、大自然の中で伝えるられるのは、屋久島だからこそ。かつて自分達も木で遊びながら育ったように、子供達にも木に触れながら成長して行って欲しいですね」

「とんとんとん」、子供達の無垢な心と目線を合わせて。

妹のゆかりさんは、鹿児島県木育インストラクター第1期生として裕司さんと二人三脚で島内の木育に取り組むかたわらで、県内インストラクター養成のための講師としても活動している。かつて保育士として働いていたことや、現在2人のお子さんの子育て真っ只中ということもあり、子供達の目線に立ち、木の温もりを伝えることを、何よりも大切にしているという。

「キラキラした目で木に触れている子供たちの姿を見ると、この活動をさせて貰えて本当に良かったなと思います。子供達はすぐに夢中なって、最後はお片付けまでちゃんとやってくれるんですよ」

”屋久島”を木で造りたい。

「きこりさんのトントン積み木」、「かごぷら」、これらは、木育で使われる玩具たち。全部で5種類の木育セットがあり、地杉など島内の木を使って、外国の積み木などからヒントを得て作られた。他にも楽器やパズルなど、鹿島兄妹の沢山のアイディアが、作品として生まれ変わる。

「例えば、木を覚えてもらうために作っていた”屋久島の森から生まれた樹種パズル”では、あえて同じ大きさの木を並べることで、重さ、色、香り、植生や分布などの違いが分かるようにしました。人間で言うと人種や住んでる国の違いが分かるのと同じです。ちなみに、屋久島では、モミの木が一番高いところに生えているので、このパズルでは1番上にモミを置いてあります。モミが頂上で吸い上げた水を、周りの植物が吸い、細かい根が枯れないようにすることで、山が崩れないように守っているんです。つまり、周りの木々が少なからずモミを利用している。この構図は、どこか人間社会にも通じるものを感じますよね。こんな小さなパズルから、地球の大きな営みをも感じることができるんです」

先人から受け継がれてきたものを大切にする。

鹿島兄妹の伝える木育は、教室の中だけではない。
島の名産品であるタンカンの畑で、子供たちと同じ歳の「6歳の木を探そう!」と、その木を見つけ、果実をちぎってジュースにして飲むという野外活動も行っている。

「その後は、畑で出た木を薪にして煮炊きをしながら、みんなで温かいものを食べるんですよ。これは、島内で薪を消費するという副産物の活用でもあります。そして、どの木にもそれぞれストーリーや思い出があるので、”この木は、お爺ちゃん達が、キミ達に使ってもらうために植えたんだよ”などと伝えていくのも、私たち木育インストラクターの役目だと思っています」

他にも、集落で伐採された銘木の活用や、屋久島高校の生徒とのコラボによる木工製作など、その活動は拡がりを見せている。

かつては2人も小さな子供だった。この島で育った兄と妹だからこそ伝えられることがあるのだろう。

(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)

関連記事一覧