新緑とヤマザクラ

こんにちは!YakushimaFilmの松田です。     

『木の芽流し』の季節になりました。木の芽流しとは春に降る大雨のことで、寒く沈黙の冬をじっと耐えた樹々が雨で目覚め新芽を芽吹くきっかけになるような雨のことをそう呼びます。本当にこの時期は一雨ごとに新緑が深まっていくので、ただ生活しているだけで新芽が伸びていく喜びを感じられます。

里から山へ新緑は広がっていき、今 白谷雲水峡では新緑とヤマザクラのコラボがピークを迎えています。鮮やかな緑色は落葉樹でいち早く新芽を出すヤクシマオナガカエデ、淡いピンクはヤマザクラ。このどちらにも当てはまることは太陽の好きな“陽樹”だということです。陽樹は、パイオニア種と呼ばれる伐採や土砂崩れなどで森が失われた場所からいち早く生えてくるような植物に多く、日当たりのいい環境で我先にと育っていきます。

陽樹が我先にと育つことは、日陰でも育つことのできる陰樹との競争に勝つための利己的な働きです。しかし、伐採や土砂崩れで森が失われてしまった場所は、屋久島の大雨が直接大地を叩き土壌は洗い流され、樹々の光合成にともなう蒸散による水の吸い上げもなくなってしまうので目に見える樹々だけではなく、土壌の目に見えない無数の命も失われた裸の大地になってしまいます。そこに真っ先に生えてくるのは、土壌の痩せた土地でも生きていけるコケ類や日当たりを好む野イチゴやカエデやヒメシャラや杉、ヤマザクラなどの陽樹です。

パイオニア種たちは大地に根を張り葉を茂らせ、夏の日差しや雨から大地の乾燥や土壌の流出を守り、葉を落とし落葉の絨毯で大地の乾燥や凍結を防ぎます。そして枯葉や役目を終えた組織は大地で虫や菌の力を借りてゆっくりと分解され土壌を豊かにし、さらなる命を支える土台となります。

パイオニア種による利己的な働きが、実は様々な命を育てる利他的な役割を果たしているのです。

利己と利他は相反するものだと思いがちですが、自然界では利己と利他はただの表裏で、すべての命が作用しあい循環して成り立っています。森の生態系のなかに見る利己と利他。そこには人間のような偽善は存在せず、各々が各々の命を全うすることによって生まれる調和があります。

新緑のこの季節、緑の色は一年で一番豊かになり、まるで油絵のような配色は普段何気なく目にしている森にもこれだけ様々な種類の樹々が存在し多様であることを気づかせてくれます。そして、その中でもひときわ美しいオナガカエデとヤマザクラの色はそんな多様性にあふれた森のはじまりを感じさせてくれます。

意識は石と木である。これは先日友人と話していたなかで出てきた言葉です。意識しなければただの森、しかしそこには様々な樹々が存在し石も転がっています。そんなありふれたありとあらゆるものすべてに役割は存在し、そんな石や木を意識することで、人と自然の繋がりは深まり、調和した世界になっていくはず。春の色は、そんな世界を意識するヒントをくれているように感じます。

生命の島。その生命の循環や豊かさを感じられる春の屋久島は僕の一番好きな季節です。春の屋久島に来たことがない方はぜひお越しください。

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