水の島、厳冬の奥岳
YAKUSHIMA FILMの松田です。
先月末は記録的な寒波の到来で1月25日には島内では平地でも積雪が観測されました。
南国とはいえ高山を誇る屋久島の山岳では大量の雪が降ります。一晩で黒々としていた森は真っ白な雪景色に変わり、容易に人を寄せ付けない世界に早変わりします。
今回は雪の降る前に入山し寒波を待ちました。永田岳周辺は一晩で1mを越す降雪もあるので、ワクワクと不安とたくさんの燃料と食料と機材を持っての撮影です。
『水の島=屋久島』と思い浮かべると、雨や清流、水の滴る苔や森など生命が動き出すイメージを持つと思います。しかし、本当に水の島を感じられるのは冬だと僕は思っています。
屋久島の冬山で印象的なのは霧氷です。特に風当たりの強い永田岳周辺は、寒波が来るとありとあらゆるものが凍り付き真っ白な世界に豹変します。
屋久島が世界有数の降水量を誇り、豊かな植生を育めるのは島の周りを流れる黒潮のおかげです。黒潮から湿気をたくさんもらった空気が、極めて急峻な山々を駆け上り冷やされ雨や雪になります。
島の北西部に位置する永田岳は海からの風をさえぎるものはなく、冬の強い北西の季節風が一気に山々にぶつかり、雪になったり何かにぶつかり空気中の水分は凍り付きます。
美しき霧氷は水の島が海から始まっていること、海と山が繋がっていることを時が止まったかのように教えてくれます。そして、太陽が当たるやいなや溶けだし、時間は動き始め水の循環のストーリーは山から海へ流れ始めます。
冬の山は生き物の気配が少なく無機質です。だけどそこには水という生命の源のストーリーが存在します。
そして、屋久島ならではなのが真っ白な雪と森と海のグラデーションです。山岳エリアでは氷点下で1m近い積雪があっても標高の低い照葉樹林は黒々としていて、里では雪はほとんど降らずタンカンなどが実り、海ではウミガメが泳いでいます。
1つの島で、数キロの中でこれだけの変化が見られるのがこの島の魅力です。永田岳からの眺めは標高差の生み出す多様性や海と山の繋がりを感じさせてくれます。
今回は思ったより天候が回復せず厳しい撮影となりました。でも、思った絵が撮れても撮れなくても、厳しい冬の山に自分自身や自然と向き合い時間を過ごすことはこの土地に生きる写真家として大切な時間となりました。そしてやっぱり冬の山はこの土地を知り尽くしたものにのみ許されるプロフェッショナルな場所だとも。
温暖化が進む現代、50年後には見られなくなるかもしれない雪の屋久島の姿をこれからも記録していきたいです。
最期に、動画でもお楽しみください!
(Yakushima Film 松田浩和)