富山美幸さん/美術教師・画家
“屋久島の自然を描きたい”と移住した画家。島内の小中学校の美術教師へ。
「わたしは、“先生”としては、変な先生かもしれません!」
そう語るのは、島内の小中学校で、美術教師として勤務している富山美幸さん。屋久島へは、2017年に、“絵を描きたい”という目的で移住した。それまで“教師”とはかけ離れた仕事をしていたため、「まさか島の子供たちに美術を教えることになるとは思っていなかった」というが、この4月には、子供たちと過ごす2度目の春を迎えた。
「学校では主に基礎を教えています。例えば“色”についてや、鉛筆の濃さなど、こちらにとっては、当たり前だと思っていたことでも、子供たちは、ひとつひとつに喜び、感動してくれるんです」
富山さんは東京都出身。多摩美術大学工芸科を卒業後、都内の飲食産業工事部壁画部門で、工事現場の職人たちに交じって壁画を描く仕事をしていた。壁画製作は、オーダーされたものを期日内に仕上げるというもの。師匠であるエネルギッシュな2人の女性壁画師の仕事を間近で見てきたことは、富山さんの人生に大きな影響を与えたという。
「壁画の現場では、相手の求めていることに対して“全力でいいものを作り上げる”ということを学びました」
壁画師としての富山さんの作品は、平内集落に行けば見ることができる。個人の倉庫の外壁に描いた色とりどりの“島の果実たち”は、季節を問わず集落の景色を賑わせ、通りすがりの人達を笑顔にさせている。
屋久島の森を水彩画で描く
そんな富山さん、屋久島に来て描いているのは、水彩画だという。
“絵”といっても、その手法はさまざま。
「私は“リアルに描く”ということが好きなので写実を得意としています。いわゆる“リアリズム”がベースにあり、自分の目に焼き付いているものを、筆で再現していきます」
その言葉どおり、屋久島の森を描いた絵は、繊細な筆使いから植物の小さな息づかいが聞こえてくるようだ。朝露に濡れた葉っぱのキラキラや、木々の間から漏れる光など、屋久島の森の中にある美しい自然の描写が、富山さんの筆を通して真っ白な画用紙の上に表現されている。
富山さんは、6回の来島を経て7回目で島に移住した。緑の濃さ、木々の自由さ、根っこの張り巡りかた、そしてここでたくましく生きる人々、そのどれもが「日本なのに、日本のどこでもない。世界のどの国とも違う。ここは異質だ」と感じたという。
「そんな島で育った子供たちに、私でも教えられることがあるなら…」
春の風が柔らかくなり、新緑が落ち着くと、すぐにスケッチ大会がやってくる。道端に座り、絵の具だらけの指で島の景色を描く子供達と交わる、’’富山先生’’の姿が目に浮かんだ。
Written by 散歩亭 緒方麗
富山美幸
- 住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町