高久至さん/水中写真家・ダイビングインストラクター
屋久島の海の多様性を撮りながら、世界の海を渡り歩く水中写真家
フェリーや高速船が行き交う宮之浦港を、西側に向かって10分ほど車を走らせ、岩壁に面した県道の大きなカーブを曲がると、目の前に美しい海が広がる。大きなガジュマル群が海のギリギリまで迫る志戸子集落についた。志戸子ガジュマル園のすぐに近くに住む高久至さんは、カメラを片手に世界の海を渡り歩く水中写真家。
2009年に屋久島へ移住し、ダイビングインストラクターとして”屋久島ダイビングライフ”を立ち上げた。移住のきっかけは意外にも子供を育てるためだったという。新婚旅行と称して奥様と2人で訪れたのは2月のオフシーズンの屋久島。到着したその日は、大荒れの天気だった。
「数日の滞在中、海に潜ったら”屋久島ってこんなに面白いんだ”と驚いたんです。屋久島は山や森ばかりが取り上げられますが、ひとたび海の中に入ると多種多様な生き物が息づき、とてもカラフルな世界が広がっていたんです」
高久さんは、大学在学中からダイビングサークルに所属し、卒業後1年間の海外放浪の旅を経て、ダイビングショップに就職。屋久島へ移住後もダイビングをしながら、水中の世界を撮り始め、2015年に初の写真集『屋久島 豊饒の海』を出版した。以降、写真絵本など数冊を出版し、数々のメディアなどへ映像を提供している。屋久島のみならず、国内や世界の海に潜っている高久さんは、自然の持つ本来の”豊かさ”の重要性について、日々肌で感じていることを、本を通して伝えたいと語る。
「自然が無くなったことで、そこに住む人々から、活気がなくなってしまった地域を見たことがあります。人間のサイクルが自然を奪ってしまったとしたら、とても寂しいことです。僕は、海中で繰り広げられる生き物たちの営みを本や絵本にして、自然の美しさや儚さ、そして失われるものの大きさを伝えて行きたいですね」
屋久島の海は、日本の海の面白さを凝縮したような場所
黒潮の分岐点であり、亜熱帯の気候に少し温帯が入り交じることで、様々な生態系を生んでいるという屋久島。この島の海の魅力について高久さんはこう語る。「屋久島は、黒潮がもたらす熱帯由来の生き物が豊富で、そこに冬の季節風や地理的要因による温帯の生き物も混じり合っているためとても多様性の高い海です。
そしてさらに、島の波打ち際の植生の豊かさや華やかさは、この島の圧倒的な雨の多さが関係しているんじゃないでしょうか。小さな島に、日本の海の面白さが凝縮されているような場所ですね。まず、これだけの自然が残っているところは少ないですよ」
屋久島移住のきっかけになった息子さんももう11歳。
屋久島の北から西部にかけては、島の中でも特に美しく豊かな海が広がっているが、その玄関口でもある志戸子集落に、高久さん一家は暖かく迎え入れられたという。
「ここに住めて良かったなぁ、と思いますね。だからこそいまは、屋久島の海を知るためにもためにも、島以外の海を知らないといけない、と感じています。ゆくゆくは、屋久島の海を守りたいですね」もうすぐまた島を離れて、世界の海へと潜りに行くらしい。高久さんの海は、果てしなく広がっている。
(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)
- 鹿児島県熊毛郡屋久島町志戸子181-80
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