高田奈央さん/ヤクシマ・クジラ イルカ研究所
大自然からの贈り物!クジラやイルカに会いに行こう。
ゴツゴツとした岸壁をよじ登り、海に向かって進んでいくと、目の前にどこまでも続く水平線が現れた。
「すごいよ!向こうでクジラが潮吹いてる!」
おだやかな東シナ海の前に立ち、ニコニコ笑顔で迎えてくれる女性がいた。
ヤクシマ・クジラ&イルカ研究所の高田奈央さん。メンバーで友人の吉野佳代子さんと共に、ザトウクジラが屋久島近海に移動してくる12月〜4月頭まで、島内の海岸から、クジラやイルカなどの海洋生物を観察している。
クジラやイルカは、海洋生物のなかでも音に反応する生物だと言われている。小さなモーターボートの音さえも苦痛を与えている可能性があることから、なるべく負担をかけないように岸から観察しているという。しかし、ときにはエンジンのいらない手漕ぎのカヤックで沖まで出ることもあるそうで、大海に棲む大きな生物に小さな舟で近づこうとする高田さん達を想像すると、大自然の中での人間の立ち位置を確認するかのような気持ちにさせられる。
「カヤックで沖まで出るのは少し勇気がいるのですが、クジラを近くに感じることができると幸せです!毎日、彼らに会いに海に行くと、もしかすると人間である私達と心が通じ合ってるんじゃないかと思うほど、こちらの思いに応えてくれることがあります。呼んだらジャンプしてくれたり、尾びれや尻尾をバイバイしてるかのように振ってみたり。すごく嬉しいですね」
島から出ると寂しくなり、帰ると嬉しくなる
高田さんは、ご主人と共に2003年に屋久島へ移住。11歳までブラジルで育ち、17歳からアメリカへ。現地の大学で言語学を学んでいたときに、バイト先で同じ大学で生態学を学んでいた御主人と出会い、2人で帰国した。その後、旅行で屋久島を訪れ、縄文杉登山の帰り道で豪雨に遭い、初来島なのにとても怖い思いをしたという。
それにもかかわらず「屋久島に住みたい」という御主人に対し、高田さんは当初「私は無理だよ。屋久島の自然は怖い」と言っていたそうだ。しばらくして、先に移住していた後を追いかけるように高田さんも屋久島へ向かった。
「移住したら、屋久島は最高でした!今では島から出ると寂しいし、帰るとなるとすごく嬉しくなる。私達は屋久島が大好きなんです」
豊かで気持ちいい島。全ては調和で保っている
高田さんらは、今シーズンからクジラの尻尾の個体識別の写真を撮り始めた。シーズン終わりには、奄美、小笠原、沖縄、北海道の研究所と観察結果を照合するなどして、クジラが何処から来て、どのルートを通って北へ向かうのか、生態などを調べることになっている。
「海はまだまだ未知です。今の時期、クジラたちは北へ向かっていると思われますが、なぜこの辺りに来るのかはっきりとは分かっていません。ちょうど屋久島は、黒潮海流が接岸していたり、島全体が自然に覆われて山から流れてくる森の養分も豊富だから、クジラやイルカにとって、豊かで気持ちいい島なのもしれないですね」
海と山の間に立ち、毎日のように大自然を感じていると、地球の美しさや生き物の尊さを感じるという。
「クジラを見ていると、”海を大切にしていこう”と思えます。人間はクジラを見ると不思議と元気が出るんですよ。きっとクジラもそれを分かって、私達にいろんな姿を見せてくれるのかもしれません。生き物含め、自然は全て”調和”で保たれていますが、クジラが私たち人間に望んでいるものがあれば、それは”調和”かもしれません」
自然界からのサプライズ!
もうかれこれ1時間ほど、高田さん達と一緒に海を見ている。肉眼では見えないほど遠方で尾っぽをだしていても、調査員2人は同じタイミングで「いた!今尾っぽが出てる!」と声を出す。
こちらが双眼鏡片手にキョロキョロしていると、ふいに
「目の前を見て!凄い!」
と、高田さんの声が。
さっきまで静かだった海に沢山の白波が立っている。
「イルカの大群だ!」
遠くにばかり気を取られていたけれど、目の前の白波は、数百匹のイルカの大群だった。まるでこちらに挨拶するかのように、すぐ近くでイルカの天然ショーが始まっていた。しばらくの間、イルカの背びれが波打ち、キラキラ輝いている海を眺めていた。
(取材:Written by 散歩亭 緒方麗)
- (name)ヤクシマ・クジラ イルカ研究所
- (住所)鹿児島県熊毛郡屋久島町
- (URL)https://www.yakushima-whale.com/
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