内室二郎さん/くすのきガレージ代表・山ん学校事務局

水と火と木。島の自然の恵みに生かされる仕事は、根元の喜びを呼び覚ます。

「樟脳(しょうのう)」と聞いてピンとくる人は、何歳以上だろうか。
原料は、クスノキと水のみという、天然由来の防虫剤、樟脳は、江戸時代から薩摩藩の特産品として藩の財政を支えてきた。

化学合成された衣類用防虫剤の普及で、今は珍しくなってしまった樟脳だが、内室二郎さんは、今も屋久島産のクスノキを100%使い、伝統的な製法で、樟脳を作り続けている。

内室さんが、この仕事を始めたのは、2015年。
長らく途絶えていた樟脳づくりを復活させた兵頭昌明さんの工場を引き継ぐ形で、この世界に入った。
クスノキを丸太からチップに加工し、窯に詰めて蒸し上げる。蒸気を冷やして水と油と粉に分離させ、粉の精製を重ねると真っ白な樟脳が出来上がる。水は樟脳水として、ルームフレグランスなどに、油は貴重な国産アロマオイルとして商品化される。

燃料は樟脳の搾りかすや屋久島の薪。
水と火と木。島の自然の恵みに生かされる仕事は、根元の喜びを呼び覚ます。
屋久島の山々と水の美しさに魅せられて移住したという内室さんは、兵頭さんからこの話を受けたとき、窯の前で火をくべる自分の姿が、自然と思い浮かんだという。

工場に近づくにつれ、樟脳(カンフル)特有の眼が覚めるようなくっきりと爽やかな香りがただよってくる。一湊海水浴場からほど近く、布引の滝を望む工場は、直売も可能で、工場見学は、一湊集落町歩きの定番コースにも組み込まれている。

屋久島一人口の多い宮之浦集落には、妻の紀子さんが経営する自然食品と雑貨を扱う「椿商店」があり、こちらでは、樟脳やオイル、蒸留水などの全ラインナップが揃うほか、内室さんが、作業の合間に手作りした屋久島産材のカッティングボードや調理ヘラなども購入できる。

そんな内室さんには、「山ん学校」の事務局長というもうひとつの顔がある。
屋久島に旅人として通っていた20年以上前から、ときどき手伝っていた島の子供のための遊びの学校で、当時若手だった内室さんが、今は中心メンバーとなって学校を支えている。
1年ごとに計画されるカリキュラムは、塩作りや刃物研ぎ、雪山登山や夜の西部林道歩きなど、家庭ではなかなか体験できなくなった様々な「遊び」。大人たちも子ども以上に楽しみながら、同じ時を過ごす。
「大まかなその日のプロジェクトがあるだけで、細かい時間割はない。なんでも遊びに変えていく子どもたちと同じ時間を過ごすのが楽しくて」

自分の喜びに忠実に真剣に向き合う内室さん、その話ぶりから、子どもたちの内側からの喜びを尊重している様子が、伝わってきました。


■くすのきガレージ

屋久島町一湊2281-8
TEL 090-7825-9994
https://www.kusunokigarage.com/
*留守にすることもあるので、工場見学や直売所訪問は要問い合わせ

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