有水大吾さん/屋久島有水製材所

1000年後の森を育てる。伐採地に屋久杉の苗を

有水大吾さん/屋久島有水製材所

安房集落にある有水製材所には、森で伐られた地杉たちが整然と並んでいる。工場中に響き渡る大きな製材機の音、そして削られた木が醸し出す匂いが、製材所の中を包んでいた。

有水大吾さんは、安房集落の山手側にある有水製材所の3代目。
高校から鹿児島市内に渡り、広告代理店や有機生産組合での勤務を経て、25歳のときに帰島した。

帰島前は、林業ではなく、農業をやりたかったというが、そんな気持ちとうらはらに、実家に帰った次の日にはチェンソーを持ち、山に入っていたという。気がつくと祖父の代から続く家業を継ぎ、10年が経つ。

有水大吾さん/屋久島有水製材所

有水製材所の仕事は、荒れた森林で間伐した材を里へ持ち帰り、工場で製材するというもの。しかし、最近はそれに加え、伐採した土地に”屋久杉の苗”を植えるという、新しい取り組みが行われている。

「里山などは特に外来種の木も多く、放っておけば土地が荒れて行くだけです。屋久島の山を荒らしたくない、という思いから始まった取り組みです」

森林管理署の管轄のもと、島内の森林組合や林業事業体などが中心となって活動している植林事業だという。

屋久杉の苗を育てるには、まずその種を採るところから始まる。高さ約20メートルほどの屋久杉にロープをかけて上まで登り、葉先に揺れる球果を採りに行く。まさに命懸けの作業だ。採った球果を乾燥させ種を取り出した後は、プランターで丈夫な苗になるまで、2.3年かけて大切に育てるという。しかし、屋久杉を育てるのは実はとても難しいと有水さんは語る。

「規格の大きさになるまでちゃんと育ってくれるのは、まだ30%〜40%ぐらいです。長い時間をかけて試行錯誤し大切に育てても、半分以上枯れてしまうので、ショックも大きいですね」

子供たちのために

屋久杉とは樹齢1,000年以上のものを言う。現在、そのほとんどが標高1,000m以上の地域に自生している。雨が多く天候が変化しやすい過酷な自然環境を生き抜いてきただけに、他の木に比べて、木目が詰まり油分が多く、幹がしっかりしていて、葉の色も濃い。そして何より、葉を触ると手が痛くなるほど硬いのが、屋久杉の特徴だと有水さんは語る。

「屋久島の先人たちは、後世の人たちの暮らしのために、森を造ってくれていました。そのおかげで、いまこうして自分たちの暮らしが成り立っています。だから自分たちも、子供達の未来のために1,000年後の森を育てています」

有水大吾さん/屋久島有水製材所

屋久島の人々にとって、木とは、今も昔も共に生きていく存在。1,000年後の屋久島の森は、有水さんたちの手によって約束されている。

(取材: Written by 散歩亭 緒方麗)

屋久島有水製材所

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