田中智彦さん/本坊酒造 屋久島伝承蔵
100年ものの古甕と大自然に磨かれた屋久島の水から生まれる焼酎、伝統と革新の両輪で蔵を守る工場長
屋久島で唯一、手造り甕(かめ)仕込みで芋焼酎を製造している「本坊酒造 屋久島伝承蔵」に赴任して1年。
田中智彦さんは、工場長として、コロナ禍の「屋久島伝承蔵」を取り仕切ってきた。
縄文杉や九州最高峰の宮之浦岳に通じる県道「荒川線」の入り口に位置する「伝承蔵」は、新型コロナウイルスの影響で、工場見学や直売所に立ち寄る観光客が激減。
「それならば、来られない方々にこちらから情報を届けよう」と、蔵や芋畑の様子をSNSを使って発信しはじめた。
明治20年から現存する甕が並ぶ蔵の内部や、工場から望む春牧前岳の勇壮な姿、幹線道路沿いとも思えない緑豊かな焼酎蔵の四季を伝える。
初夏は畑の季節。屋久島限定の芋焼酎「水ノ森」の原料となるさつまいも「白豊(しろゆたか)」は自社農場で育てられており、ふだん、焼酎蔵や事務所で働いている職員も、この時期は畑に駆り出される。土作りから瓶詰めまで、広く携わっている。
伝承蔵の敷地には、焼酎だけでなく、ウイスキーの香り漂う一角もある。蔵の東に立つ、ウイスキーのエージングセラーは、増築工事の真っ最中。セラーでは、島外の蒸溜所で造られ、運び込まれたウイスキー樽が整然と並ぶ。
ウイスキーのオーク樽とともに並ぶのは、ちょっと白っぽい屋久島の地杉樽。屋久島ならではの企画で、この樽に詰められた焼酎は、「屋久杉 Yakushima Jisugi Cask Aging」として発売され、ISC2020(インターナショナル スピリッツ チャレンジ)トロフィー&最優秀金賞をはじめとした、数々の賞を受賞している。
直売所には、高田裕子さんの「大自然林」や「水ノ森」、黒飛共子さんの「屋久島たんかん酒」、向井晶子さんの「屋久島サングリア パッション&赤・白」のように、屋久島在住の画家の作品を採用したラベルも多い。「地域文化の継承と革新」という本坊酒造の経営理念そのままに、フットワーク軽く、地域に根ざした様々な取り組みが見て取れる。
田中さんは、屋久島に赴任する前、本坊酒造本社で商品開発に携わってきた。
ガレージに干されている香り高い植物は、自身も開発に携わった「Japanese GIN 和美人」にも一部使用されているコリアンダー。ジンの製造場である「マルス津貫蒸溜所」へ送られる。
「屋久島の1番の魅力は、水のおいしさ。その次に感じるのが、地元民に移住者や観光客、多くの方が混ざり合う人材の豊かさなのではないでしょうか」と語る田中さん。地域の方々に支えられながら、徐々に自分のカラーも出していけるよう、意欲を持って2年目に臨んでいる。
(取材:一湊珈琲編集室 高田みかこ)
本坊酒造 屋久島伝承蔵
https://www.hombo.co.jp/company/kura/yakushima.html
屋久島町安房2384
TEL:0997-46-2511