日高昭代さん/音楽教室PEO
この夏、屋久島の子どもたちによるミュージカル「ヘンゼルとグレーテル」が、「屋久島離島開発総合センター」(屋久島町宮之浦)で上演された。500席を超える会場は、ほぼ満員。脇を固める地元劇団「屋久座」の大人たちに支えられながら、子どもたちは堂々とした演技を披露した。
このミュージカルを主催したのは、日高昭代さん率いる「音楽教室PEO(ペオ)」(屋久島町宮之浦)。2019年に新設されたミュージカルクラス「figli della Luce(フィーリデラルーチェ)」初めての公演となる。
「普段おとなしい子でも、役に入って演じたり、踊ったり歌うことで、違う自分になり、内面にある勇気や希望を引き出せる」と語る日高さんは、1988(昭和63)年に教室を開設してから30年以上、島の音楽教育に携わってきた。ピアノを中心に声楽や音大受験指導を行い、教え子は1000人を超える。
子どもたちの秘めた可能性が花開く瞬間を、これまでなんども目の当たりにしてきた経験から出てきた、実感のこもった言葉だった。
日高さんは、屋久島南部原(はるお)の出身。
叔母がピアノ講師だったことから、自然と音楽に親しみ、短大の音楽学部のピアノ科を卒業後は、大手音楽教室に就職。社会人としての歩みを始めたものの、介護を理由に島にUターン、手探りで音楽教室をスタートさせた。
当時の屋久島は、講師の家族の転勤や引越しを理由に、音楽教室が数年ごとに生まれたり廃止されたりを繰り返し、生徒はブランクに悩まされることも多かった。日高さん自身、叔母の引退後にブランクを味わった経験を持つ。
そうしたことから、日高さんの教室では長い付き合いを大切にしており、就学前から高校卒業まで10年を超えて通う生徒も珍しくない。
今回のミュージカルで、企画、脚本、演出、音楽、歌唱、指導を担った日高さんだが、島で「音楽教室」の看板を掲げていると様々な依頼が舞い込む。伴奏はもとよりバンドに誘われたり作曲や編曲を頼まれたり、ミュージカルを支えてくれた地元劇団「屋久座」にも、多くのオリジナル曲を提供した。
チャレンジは喜びをもたらす。子どもたちにも「大きな舞台をどんどん経験して欲しい」と、島外のコンクールへの挑戦を積極的に後押しする。その分、自身の鍛錬も怠らず、Uターンしたのちも、島外の講師との交流レッスンも続けてきた。
そこから生まれた人脈から、島でコンサートの運営を手伝うことも度々だ。9月30日には、2005年にショパン国際ピアノコンクール第4位に入賞した山本貴志さんが2年ぶりに来島する。
音楽教室の生徒でなくとも、コンサートで、ミュージカルで、集落のテーマ曲で……、島民は知らず知らずのうちに、日高さんの30年を超える歩みの恩恵を受けているのかもしれない。
■音楽教室PEO
屋久島町宮之浦2400-8
TEL 0997-42-2083